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No トロフィー内容 難易度 分類 備考 23 ラッキーシャッフル限定アイテムを全て手に入れた ★★★★ アイテムコンプ関連 トロフィー取得条件 ラッキーシャッフルでのみ入手できるアイテム47種を全て手に入れる。 攻略方法 ラッキーシャッフルという名だけあって運が絡んでくるこのミニゲームは その仕様から何度もプレイヤーの心をへし折ろうとしてくる。 結局は数をこなして何度も挑戦する以外有効な攻略法はない。 少しでも当選確率をあげるため追加ができる充分な資金を持って臨むべきである。 詳細 ラッキーシャッフル限定アイテムは以下の通り(全47個) 番号 名称 分類 出現コース 4 光神剣フラガラック 剣 プラチナ、ゴールド 49 ジオブレード 剣 カッパー 53 ゼロブレード 剣 ゴールド、シルバー 90 ギールソード 大剣 カッパー 99 ゼロソード 大剣 ゴールド、シルバー 143 ゼロサーベル 細剣 ゴールド、シルバー 148 ヘルズスパイク 杖 プラチナ、ゴールド 189 ゼロロッド 杖 ゴールド、シルバー 194 伝説のおぼん ナイフ プラチナ、ゴールド 235 ゼロナイフ ナイフ ゴールド、シルバー 281 ゼロアックス 戦斧 ゴールド、シルバー 327 ゼロアロー 弓 ゴールド、シルバー 331 七星剣・破軍 短剣 プラチナ、ゴールド 372 ゼロダガー 短剣 ゴールド、シルバー 415 サボテンアーマー 鎧 カッパー 423 ヒーロー養成ギブス 鎧 ゴールド、シルバー 424 聖衣ブリュンヒルド 服 プラチナ、ゴールド 425 ヴァルキリーアーマー 服 ゴールド、シルバー 436 乙女の制服 服 カッパー 440 光翼の聖縫 服 ゴールド、シルバー 442 黒天使のローブ 服 ゴールド、シルバー 472 闇の法衣 服 シルバー、カッパー 502 ランニングシャツ 服 カッパー 505 聖なる白い盾 盾 プラチナ、ゴールド 519 イリスの盾 盾 プラチナ、ゴールド 525 ペルセウスの輝く盾 盾 シルバー、カッパー 540 邪甲ケイオスブラッド 盾 ゴールド、シルバー 541 聖甲・雷帝武神 盾 プラチナ、ゴールド 557 エノシクトングローブ 腕輪 シルバー、カッパー 563 にくきゅうグローブ 腕輪 カッパー 592 冥府の兜 兜 プラチナ、ゴールド 596 武神の兜 兜 シルバー、カッパー 633 ゴーグル 兜 カッパー 635 エンジェルサークル 帽子 プラチナ、ゴールド 636 聖鈴の髪飾り 帽子 プラチナ、ゴールド 637 戦女神の羽根冠 帽子 ゴールド、シルバー 639 星光のティアラ 帽子 ゴールド、シルバー 640 慈愛のリボン 帽子 シルバー、カッパー 649 クラウン・オブ・ベイ 帽子 ゴールド、シルバー 672 白い麦わら帽子 帽子 カッパー 692 邪神のすね当て グリーブ シルバー、カッパー 735 精霊の靴 クツ プラチナ、ゴールド 737 魔神の靴 クツ ゴールド、シルバー 746 ゴム長靴 クツ カッパー 755 ウサギのクツ クツ カッパー 824 精霊の指輪 アクセサリー プラチナ、ゴールド 944 雑草 回復アイテム カッパー コース別 カッパー(11個) 番号 名称 分類 出現率(カッパー) 49 ジオブレード 剣 1.6% 90 ギールソード 大剣 1.92% 415 サボテンアーマー 鎧 2.56% 436 乙女の制服 服 1.6% 502 ランニングシャツ 服 4.8% 563 にくきゅうグローブ 腕輪 1.6% 633 ゴーグル 兜 4.8% 672 白い麦わら帽子 帽子 1.6% 746 ゴム長靴 クツ 1.6% 755 ウサギのクツ クツ 1.6% 944 雑草 回復アイテム 8.25% シルバー、カッパー(6個) 番号 名称 分類 出現率(カッパー) 出現率(シルバー) 472 闇の法衣 服 0.05% 1.6% 525 ペルセウスの輝く盾 盾 0.05% 1.6% 557 エノシクトングローブ 腕輪 0.05% 1.6% 596 武神の兜 兜 0.05% 1.6% 640 慈愛のリボン 帽子 0.05% 1.6% 692 邪神のすね当て グリーブ 0.05% 1.6% ゴールド、シルバー(17個) 番号 名称 分類 出現率(シルバー) 出現率(ゴールド) 53 ゼロブレード 剣 0.05% 1.6% 99 ゼロソード 大剣 0.06% 1.92% 143 ゼロサーベル 細剣 0.07% 2.24% 189 ゼロロッド 杖 0.06% 1.92% 235 ゼロナイフ ナイフ 0.07% 2.24% 281 ゼロアックス 戦斧 0.06% 1.92% 327 ゼロアロー 弓 0.07% 2.24% 372 ゼロダガー 短剣 0.06% 1.92% 423 ヒーロー養成ギブス 鎧 0.15% 4.8% 425 ヴァルキリーアーマー 服 0.05% 1.6% 440 光翼の聖縫 服 0.05% 1.6% 442 黒天使のローブ 服 0.05% 1.6% 540 邪甲ケイオスブラッド 盾 0.05% 1.6% 637 戦女神の羽根冠 帽子 0.05% 1.6% 639 星光のティアラ 帽子 0.05% 1.6% 649 クラウン・オブ・ベイ 帽子 0.05% 1.6% 737 魔神の靴 クツ 0.05% 1.6% プラチナ、ゴールド(13個) 番号 名称 分類 出現率(ゴールド) 出現率(プラチナ) 4 光神剣フラガラック 剣 0.05% 1.65% 148 ヘルズスパイク 杖 0.06% 1.98% 194 伝説のおぼん ナイフ 0.07% 2.31% 331 七星剣・破軍 短剣 0.06% 1.98% 424 聖衣ブリュンヒルド 服 0.05% 1.65% 505 聖なる白い盾 盾 0.05% 1.65% 519 イリスの盾 盾 0.05% 1.65% 541 聖甲・雷帝武神 盾 0.05% 1.65% 592 冥府の兜 兜 0.04% 1.32% 635 エンジェルサークル 帽子 0.2% 6.6% 636 聖鈴の髪飾り 帽子 0.05% 1.65% 735 精霊の靴 クツ 0.02% 0.66% 824 精霊の指輪 アクセサリー 0.02% 0.66%
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元スレURL しずく「とある金曜日に」 概要 あなたの中の甘い私 辛さの中にある色々な味も知ってほしくて タグ ^桜坂しずく ^高咲侑 ^短編 ^ほのぼの ^ゆうしず 名前 コメント
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「あれ?緋花は?」 夜間活動に突入した176支部外回り組の中で、最初に焔火の不在に気付いたのはリーダーである加賀美。 丁度手分けして聞き込みとかをしていた最中だったので、加賀美の傍に居るのは神谷と一色だけであった。 「そういえば見掛けないな。焔火の奴・・・何処に行った?まさか・・・また勝手にどっかに・・・?」 「でも、最近の焔火ちゃんは単独行動する時はちゃんと俺達や後方に居る葉原ちゃんとかに連絡してますよ?ねぇ、加賀美先輩?」 「そうね。・・・とりあえず、ゆかりに連絡が来てないか確認してみる」 一色の進言は的を射ていたので、加賀美も慌てずに成瀬台に連絡を入れる。 通常は成瀬台支部に繋がる電話番号は1つ限りだが、風紀委員及び警備員間にだけ知らされている特別な番号がある。 そこに掛ければ、該当支部のオペレーターに直接繋ぐことができるのだ。 「あっ!ゆかり。今大丈夫?」 「はい、大丈夫ですよ。何かあったんですか?」 数コール後、176支部のオペレーター葉原ゆかりと回線が繋がった。 「えっとね、緋花から何か連絡入ってない?さっきから姿が見えなくてさ」 「緋花ちゃんが?いえ、私には何も。・・・ちょ、ちょっと待って下さい。鳥羽君にも聞いてみますから!」 「・・・わかった」 どうやら、葉原には焔火から何の連絡も入っていないようだ。その事実に、加賀美は嫌な胸騒ぎを覚える。あの“変人”が言った言葉を思い出しながら。 『俺が敵方なら、まずはあの娘から篭絡する・・・というか潰す』 「(そ、そういえば双真が私を狙ってくる可能性ばかり考えていたけど、あの人の見立てだと緋花もすごく狙われやすいんだよね。ま、まさか・・・ね。いや・・・でも・・・)」 「加賀美先輩!」 「う、うん!?どうだった!?」 今まで忘れていた可能性の実現性について冷や汗をかきながら考えていた加賀美に、部下である葉原が言葉に安堵の色を混ぜながら言葉を放つ。 「鳥羽君に連絡を入れていたみたいです。どうやら、178支部へ出向中に真面君達と作ったルートを辿って行くみたいです。何だか気になる所があるみたいで」 「そ、そう。・・・緋花の奴、少し功を焦っている感があるね。後で指導しないと!」 「ですね。私からもそれとなく言っておきます」 「そうね。よし、わかった!それじゃあ、後方業務よろしくね!」 「はい。先輩達も頑張って下さい!」 「うん!」 事情を把握した加賀美は、葉原との通話を切る。どうやら、自分が抱いていた危惧とは違っていたようだ。 「どうでした?」 「帝釈に連絡を入れての単独行動ね。178支部の子達と作ったルートに沿って調べたいことがあるみたい」 「そうですか!この暑い中張り切っていますね、焔火ちゃん!」 「そういう一色は、見るからにやる気が無いように見えるけどな」 「そういう神谷先輩だって、ずっと仏頂面だからやる気があるかどうかもわから・・・」 「ほぅ。なら、俺のやる気を感じてみるか?物理的に」 「ビクッ!!い、いやだな~。冗談ですよ、冗談」 地雷を踏んでしまった一色に、神谷が『閃光真剣』を片手に(脅迫という名の)証明をしようとする。なので、慌てて弁解する一色。 そのやり取りを見て、加賀美は笑いを零す。先程抱いていた嫌な思いが霧散するのを、確かに感じていたために。だが・・・ ドガーン!!!!! 「「「!!!??」」」 それ―安堵―もすぐに霧散する。 「破輩先輩!!あれ・・・!!」 「やはり、さっきの音は爆発か・・・!!湖后腹!!お前は、すぐに警備員に連絡を!!鉄枷!!一厘!!私達は、現場へ突入するぞ!! 『疾風旋風』で煙をできるだけ吸い込まないように調整するつもりだが、完全には防げないかもしれん!!ガスへ引火する可能性もある!!慎重に行くぞ!!」 「「「了解!!」」」 ここは、第5学区のビル街の一角。破輩率いる159支部の面々は、夜間活動中にあるビルの一角で起きた爆発事故に遭遇した。 当時は少し離れた場所に居た彼女達の耳に突き刺さった、2つの大きな爆発音。破輩達は、とりあえず距離が近い方の爆発音へと向かった。 そして、目にしたのはビルの5階から爆炎と煙が上がっている惨状。他のフロアを巻き込んでいるようで、中は黒煙のせいでどうなっているか不明。 あの中に、まだ生存者が居るかもしれない。『ブラックウィザード』の捜査中ではあったが、この惨状をみすみす放置するわけにはいかない。 「(とにもかくにも、中の様子を確認しないと動くに動けない。もし、あそこに人が居れば湖后腹が連絡した警備員と共に救出作業に当たらなければ!!)」 内心焦りながらも、冷静に現状を分析する破輩。彼女の判断は正しい。非難される代物では絶対に無い。 だが・・・こう仮定した時に彼女の判断はどう思われるだろうか?『この爆発事故それ自体が、外回りをしている風紀委員を釘付けにする罠であったとしたら?』・・・と。 「椎倉!私と緑川君は、近隣で起きた連続爆発事故への増援に行って来るっしょ!!後のことは任せていい!?一応、最低限の人数は残して行くから!!」 「了解しました。早く行って下さい!!人命が関わっている可能性が高いですし!!」 慌ただしく動く、成瀬台に駐在する警備員達。橙山が言う通り、今の彼女達には仲間からの応援要請が届いていた。 ここ成瀬台から結構離れた場所―しかも数箇所―で起きた爆発事故。タイミングから、これ等は同一犯が行った連続爆発事件として捉えられていた。 一刻も早い現場把握、そして救命作業が求められる可能性が高い事案として、ここに居る警備員達にも応援要請が届いたのだ。 成瀬台の警備として配備していた駆動鎧の機能を存分に発揮し、現場へ向かう消防隊と連携して事に当たることとなっていた。 「それじゃあ、行って来るっしょ!!緑川君!!」 「おう!!」 真剣な表情で会議室を出て行く橙山と緑川。程無くして、警備員専用の車両が何台も成瀬台を後にする。 「物騒ですね、椎倉先輩」 「あぁ。近くに居合わせた159支部と176支部も、現場で警備員の手伝いをしているようだ。俺達は、今回の事件で死者が出ないことを祈るしかない」 「椎倉先輩。どうやら、私達花盛支部も現場に。丁度上空を飛んでいた美魁が、爆発音と爆炎を目撃したみたいで」 「六花・・・。まぁ、閨秀の『皆無重量』なら上空からの観察も容易だしな」 橙山達が出て行ってから数十分経ち、会議室内は沈滞の空気が漂っていた。 そんな中初瀬の問いに椎倉が答え、それに六花が乗っかる。計画性を疑われる犯行について、どうしても気になってしまう部分があるのだ。 風紀委員会に所属する風紀委員が、現場で動いていることが余計にそうさせる。後方支援に就いている他のメンバーも、椅子を椎倉の方に向けている。 「この調子だと、今日の夜間活動はこの爆発事件に時間を取られる形になるわね」 「山門先輩・・・。冠先輩、大丈夫かなぁ・・・?」 「大丈夫だって。幾凪も知ってるでしょ?いざという時の冠先輩は、すごく頼りになるって!ねぇ、香織?」 「そうですね。閨秀先輩も現場に居るんですし、きっと大丈夫ですよ」 「こう言っては語弊がありますが、破輩先輩達も災難ですね。これから、夜間活動の本番だというのに」 「佐野君・・・。妃里嶺なら、どんな時も全力で事に望むでしょうね。全力を出し過ぎて、消耗しなければいいんだけど」 「物騒だな・・・。そういえば・・・葉原。確か、“焔火”は“単独行動中”だったな。・・・“大丈夫か”?」 「!!!・・・(スチャ)」 「ま、まぁ、大丈夫だと思いますよ?案外、爆発音を聞いて加賀美先輩の所に向かってるんじゃないですか?」 今日の夜間活動は、実質打ち止め。それを自覚した面々は、ほんの一時だけ気が緩む。緩んでしまったために・・・鳥羽の行動を見過ごしてしまった。 プシュン!!! 「えっ・・・!?」 「これは・・・!!?」 音に気付いた渚と、1人コンピュータの画面から目を離していなかった佐野が驚愕する。何故なら、今まで使用していたコンピュータの画面が突如として消えたからだ。 もちろん、それは全てのコンピュータに波及している。この現状に誰もが瞠目する中で、一番驚いていたのは・・・ 「あ、網枷先輩・・・!!こ、これってどういう・・・!!?」 176支部メンバー鳥羽帝釈。彼は、先輩の指示通りにある3つのキーワードが放たれた後に、預かったUSBをコンピュータに接続した。 後方支援組に内通者が居る可能性を考慮して、敢えてコンピュータ関係に疎い自分がその存在を割り出すプログラムをインストールする。 インストール後は、プログラムが秘かにアクセス状況を把握し、怪しい行動が無いかを監視・分析する。有事であるため、これは止むを得ない措置だという説明を受けていた。 椎倉も許可した作戦。それなのに、現実で起こっているのはコンピュータの強制シャットダウン。まさか、自分が何か間違えてしまったのか?極度の不安に陥る後輩を尻目に・・・ 「今日は、夜風が涼しそうだ」 先輩は窓際へと向かい、窓を開いた。冷房の効いた会議室に、生暖かい夜風が入って来る。 「網枷・・・!!!」 「皆に1つ謝らないといけないことがあるんだ。これは、椎倉先輩以下一部の風紀委員は既に知っていて、それを一部の風紀委員には“意図的に”知らされていなかったことだ」 椎倉は、網枷の声色の変化に臨戦態勢に入る。『真意解釈』で感じ取ったその声色に含まれた感情は・・・憤怒。 「実は・・・俺は『ブラックウィザード』の一員なんだ」 「・・・・・・へっ?あ、網枷先輩・・・・・・へっ?そ、それって・・・どういう・・・?」 「悪いな、鳥羽。お前には、厳原先輩の『透視能力』で身動きが取れない俺に代わって、 風紀委員会のコンピュータ網に蓄積されている全データの抹消及び強制終了の実行役になって貰った。 バックアップがあるコンピュータとの回線も、俺の方で別ウィンドウを開いて繋いだからそこから通じてオジャンだ。まぁ、データの抹消は然程重要では無いけどな。 ククッ、さすがは俺の後輩だ。見事にその役目を果たして貰ったよ。全く・・・扱いやすいったらない」 そう。鳥羽が差したUSBに含まれていたのは、コンピュータに差し込むだけで該当コンピュータ及びそれに繋がれている情報網(プログラム)を潰すコンピュータウィルスであった。 『ブラックウィザード』の幹部である蜘蛛井が開発した特別製のウィルス。外部からのハッキングを警戒して、風紀委員会のコンピュータは全て独立していた。 『書庫』等にアクセスする時も、所定の手続きをした後に繋ぎ、事が終わればネットワークを切っていた。 バックアップを保管してあるコンピュータも同様。故に、鳥羽は網枷の話―アクセス状況の調査によって、内通者を割り出す―を信じた。 コンピュータ関係に疎い自分でも、網枷の説明はわかりやすかった。自分がすることは、USBを差すことだけ。 後のことは椎倉達が主導的に。それだけで自分は・・・。そんな甘い―誘導された―考えに“辣腕士”はつけ込んだ。 アクセス状況の調査など、固地が自分の正体に気付いた頃から既にやっていただろうに。椎倉も、ずっと監視していただろうに。 そんな考えすら抱かなかった後輩に、網枷は哀れみの視線を送る。 「よく踊ってくれた。鳥羽・・・お前は今回の件のMVPだよ。自分で自分達の首を絞めたんだからな」 「そ、そんな・・・・・・そんな・・・!!!」 「と、鳥羽君!?しっかり!!!」 己がしてしまった醜態極まる行動に、鳥羽はその場にへたり込む。そんな同僚を、葉原が何とか支える。 「網枷!!」 「椎倉先輩。監視活動ご苦労様です。これで、あなたも重圧から解放されるでしょう? それに・・・あなたならわかっている筈だ。俺が、何故自分の正体を明かしたのか・・・その意味を」 「(・・・!!近くに『ブラックウィザード』の構成員や“手駒達”が居るのか!?だが、ここは警備員達が・・・・・・!!!!!)」 そこまで思考を張り巡らせた椎倉が、愕然とした表情を露にする。それを予期していた網枷は告げる。 「想像通りですよ、椎倉先輩。さっき話題になっていた連続爆発事件ですが、あれは陽動です。ここに居る警備員を手薄にするため。そして、外回りの風紀委員を釘付けにするため。 タイミングの調整には苦労しましたが、159支部の風紀委員が持つ手錠に発信機を埋め込んでいましたから、それを利用させて貰いました。 佐野先輩には、以前2人きりになった時にシステムへのアクセス方法を教えて貰いましたから、それを“俺達”の仲間が存分に使わせて頂きましたよ。 当然、ここのコンピュータからもアクセスできますし、俺が使っていたコンピュータはUSBが差し込まれる直前にそこにもアクセスしていましたから、同時に感染しましたね」 「私達のシステムを悪用したのか!!」 「くっ!!!」 「あぁ、そうだ。彼等に連絡は取れませんよ?有線網には細工をしましたし、無線網は成瀬台を中心とした周囲一帯に強力なジャミング電波を発しています。残念でしたね」 網枷は、不敵な笑みを浮かべながら説明する。それは、無表情という仮面を脱ぎ去った彼本来の姿。 鋭利な視線を向ける“辣腕士”に、いよいよ最大級の危機感を抱く風紀委員達。まだ、網枷が『ブラックウィザード』の一員であることを信じられない人間も居る。 だが、目の前に聳え立つ現実は網枷が敵であることを示すモノだった。 「お前が正体を明かしたということは・・・構成員や“手駒達”が近くに居るのか!!?」 「居るのは“手駒達”だけですよ。唯・・・今回は俺なりのアレンジを加えてましてね。“アレ”があるんですよ」 「“アレ”!?それは一体・・・!?」 「椎倉先輩!!」 「ッッ!!どうした、厳原!!?」 突如後方に居た厳原―『透視能力』で“アレ”を見た―が放った悲鳴にも似た大声に、椎倉を初め他の風紀委員が目を向けた。 その隙を逃さず、網枷は“手駒達”―別の“手駒達”の使用する光学系能力で姿を隠していた―の念動力で宙に浮く。そして、別れの言葉を言い放った。 「では、手向けの花を受け取って下さい。では」 「ま。待て、網枷!!!」 椎倉の制止を気に留めるわけも無く、網枷は会議室を脱出した。その直後目に映したのは・・・網枷が零した“アレ”。 「な・・・ん、だと・・・!!!」 それは、『Hsシリーズ』と呼ばれる学園都市が誇る最新鋭兵器群の1つ。 「馬鹿・・・な・・・!!!」 機体の左右に機銃やミサイルを搭載した『羽』を持つ、通常は第23学区・制空権保全管制センターより発進する学園都市最新鋭の無人攻撃ヘリ。 ガシャッ!!! HsAFH-11、通称『六枚羽』が搭載しているミサイルの照準を会議室へと向ける。そして、それ等は躊躇無く一斉に放たれた。 「くそっ!!」 『六枚羽』が今回搭載しているミサイルの照準には赤外線が用いられている。今回の作戦ではジャミング網を敷くに当たって多種多様の電波を氾濫させているために、 ミサイルロックにおける電波照準に狂いが生じる危険性があった。風紀委員会には、湖后腹という強力な『電撃使い』も存在する。 もし、彼が後方に残っていたら・・・その可能性を考慮して彼が扱えない赤外線ロックを採用したミサイルを用いた。 そんな敵の意図を知りようが無い風紀委員の中で咄嗟に反応したのは佐野。彼は電波や赤外線の向きを操作することができる。 故に、『光学管制』にて操作範囲内にある赤外線全てを用いてノイズを発生、加えて人体以上の熱を持っているコンピュータから放たれる赤外線を利用して、 会議室外へミサイルが誘導されるように操作する。電波照準が用いられていないことを『光学管制』で看破していた彼の機転で、何とかミサイルの直撃だけは防ぐ。 ボコーン!!!ドガーン!!!バァーン!!! 「キャアアアアアァァァッッ!!!!!」 「ぐあああああぁぁぁっっ!!!!!」 しかし、ミサイルの破壊力は凄まじい。会議室外に着弾したミサイルの爆風が会議室の壁を破壊し、同時に爆炎が巻き起こる。 そもそも、『光学管制』ではミサイルを破壊することはできない。『六枚羽』のミサイル照準に赤外線を用いた理由の一端はそこにある。 会議室という逃げ場が一切無い状態を狙われた奇襲に、風紀委員は爆炎に包まれ、翻弄され、吹き飛ばされる。 「くそっ!!何で『六枚羽』がここに!!?」 「駆動鎧で何とか応戦を・・・!!」 成瀬台に残り校舎の外で警備していた警備員達が手に機銃を持ち、応戦体勢に入る。 無線が妨害されて混乱していた最中に突如現れた脅威に、2機だけ残っていた駆動鎧に乗り込むために他の警備員が走る。だが・・・ ドドドドド!!!!! ドカーン!!!ボコーン!!! 『六枚羽』は、駆動鎧に向けて機銃を打ち放つ。弾丸に特殊な溝を刻み、空気摩擦を利用して2500度まで熱した超耐熱金属弾『摩擦弾頭』を何発も打ち込まれた瞬間、 2機の駆動鎧は膨張し、オレンジ色の輝きに侵食されて一気に爆発した。更に、周囲にある色んな機材が詰まれた車両にも『摩擦弾頭』が叩き込まれる。 「駆動鎧が・・・!!!」 「ボーっとするな!!来るぞ!!」 駆動鎧だったモノの惨状に呆然とする同僚を叱り付け、何とか応戦を試みる警備員達。そこへ・・・ ドン!!ドン!!ドン!! 何機もの駆動鎧が姿を現した。 「あ、あれは増援か!!?近くを通ったどっかの警備員支部が応援をよこしてくれたのか!!?」 「よ、よし!!これなら何とか・・・・・・うん?あの駆動鎧・・・『Hsシリーズ』じゃ無いぞ!!あれはMPS-79だぞ!!何で旧型の駆動鎧がここに・・・!!」 「それに、あれはマニュアルで見たのと形が違うような・・・」 それは、警備員達が使用する『Hsシリーズ』の駆動鎧では無かった。それは、第10学区にある学園都市唯一の少年院を警備しているタイプの駆動鎧であった。 各所が補強・改造されているそれが、何故このタイミングでここに現れたのか?その疑問はすぐに解けた。 ドン!!ドン!!ドン!! 「何いー!!?」 「ギャアアアアァァァッッ!!!」 旧型駆動鎧が手に持っていた対隔壁用ショットガンが火を吹いた。駆動鎧ごとに、ショットガンに実弾が込められたモノと込められていないモノが存在しているようだ。 込められていないと言っても大量の炸薬によって発生させた空砲の破壊力は高く、一撃で複数の人間を薙ぎ倒すのは容易であった。 背中にある金属製リュックとショットガンがパイプのようなモノで繋がっている。あれで銃弾や炸薬を補充しているのだろう。 重傷者が幾人も発生している現状を観察していた『六枚羽』は、万が一敵方に捕捉される危険性を考慮して成瀬台から離脱する。 『ブラックウィザード』が使用するこの『六枚羽』は、電磁波に対するステルスに特化した特別製であるため、通常のレーダー探知網に掛かり難い利点があった。 出所はコネクションを持っている研究機関。該当機関が非合法な手段―修復不可能な故障と偽証・廃棄ルートの改竄etc―を用いて手に入れていた『六枚羽』を『ブラックウィザード』へ横流ししたのだ。 但し、それと引き換えに極最近になって正式版に備えられ始めた“ある部品”が装備されていないが。 (“ある部品”は新規モノから優先的且つ秘かに装備され始めた+隠密犯行であったため+“ある部品”を開発・装備する会社が別なために新装備に関わる情報を取得できなかった) 離脱後、旧型駆動鎧がショットガンを放ちながら成瀬台校舎を蹂躙して行く。目的は・・・息のある人間の始末。 後方に銃やナイフを携える“手駒達”を従えた機械の群れは、『六枚羽』によって破壊された会議室周辺へと赴く。 「・・・・・・うっ」 焼け焦げた匂いが周囲を覆っている中、花盛支部の山門は意識を回復した。 「・・・こ、こは・・・痛っ!!」 何故自分がここに居るのかを考え始めた瞬間に、足元から伝わった激痛に顔を顰める。見れば両足が瓦礫の下敷きになっており、結構な量の血を流していた。 「・・・そ、うか。私・・・・・・ハッ!み、皆は・・・・・・!!!」 現状を把握した山門がここに居た仲間達の安否を心配し、痛む体をおしながら上半身を起こし、首を左右に振り向ける。そこには・・・ 「ガ・・・ハッ・・・!」 「・・・・・・」 「い・・・たい・・・。痛・・・い・・・!!」 誰も彼もが血塗れになって倒れている地獄絵図があった。全員生きているかどうかさえわからない、もし生きていても重傷は免れない・・・そんな直感を抱いた。 「・・・・・・」 事ここに至っても、山門は冷静な思考を保っていた。常人ならば発狂してもおかしくない惨状を目に映しても、彼女の心は動かない。そんな自分に嫌気が差す。 「(本当に・・・私って薄情者だ)」 常に無表情で、何事にも動じない強靱な精神を持っているとよく言われるが、一応人並み以下の感情は持ち合わせている・・・つもりだった。 感情が無いわけじゃ無い。これは、半ば無意識的に感情を抑圧しているため。自分のためには動かないが、他人のためには動くので薄情なわけでもない・・・そう考えていた。 幼少期に両親を亡くした故に、『両親が天国でも心配しないよう、自分は強くならなければいけない』と考え、何が起きても動じないために能力を使ってでも自らの感情を抑え込んだ。 感情を殆ど抑圧している、つまり体験をしたことも無いため、恋や愛、人が死ぬ悲しみなど感情を頭では理解できても心では理解できない。それでも、頭では理解はしているつもりだった。 「(・・・何が、『頭では理解している』よ・・・。こんな光景を目にしても、私の心は全然揺れていない。・・・これで、どうやって『頭では理解している』って言えるのよ!?)」 だが、果たしてその解釈は正しかったのか。今の彼女にはわからなくなった。死者が出ている可能性がある現状にさえ、自分の心にはさざ波1つ立たない。 薄情過ぎる自分の在り方に、彼女自身が腹を立てていた。だが、現実は彼女の葛藤など知るかとでも言うかのように動き出す。 ドン!!ドン!!ドン!! 山門が首を向けると、そこには銃口をこちらに向けている旧型駆動鎧があった。それを認識した瞬間、山門は覚悟した。自分を含めたここに居る風紀委員の死を。 「(・・・私の人生・・・こんな形で終わるの?・・・これで終わっちゃうの?・・・・・・何だか・・・嫌・・・だ、な。でも・・・仕方無い・・・のか、な? お父さん・・・お母さん・・・私・・・そっちに行くよ。こんな不出来な子供で・・・ゴメンネ)」 少女は気付いていない。自分の瞳から、一滴の涙が零れていることに。それは、彼女に感情が存在していることを明確に表す証。 それに気付いていない山門は、静かに目を瞑る。自分が生きて来た意味を、最期の瞬間までは考えていたかったから。 「・・・さようなら!!」 それは、誰に向けての言葉だったのかは本人しかわからない。その言葉が夜風に舞い踊る。ショットガンの引き鉄に掛けられていた駆動鎧の指が動こうとする・・・その瞬間!! 「この世界に別れを告げるのはまだ早いぞ!!!」 それは、凛とした男の声。その声を認識し、閉じていた瞳を見開いた瞬間にあったのは、銃口を向けていた何機もの駆動鎧が遠方に吹っ飛んで行く姿。 「やれやれ。得世の奴め・・・私に決定権を譲るとはな。それならば、もっと早くに伝えておけという話だ」 山門の前に立っているのは、背の高いスポーツ刈りの男の背中。その背中に・・・山門は何故か心を強く揺さぶられた。 その背中は、かつて幼少期に幾度も見ていた父親の背中。様々なモノを背負う漢の背中。自分を救った男の後姿に、山門は在りし日の父の姿を重ねる。 「お・・・・お、父さ、ん・・・?」 それは、本能的に発してしまった言葉。それを耳にしただて眼鏡を掛けた男は、背中越しに困った風な声を出す。 「なっ!?わ、私はまだ父親になれる年齢では無い!!全く・・・血を流し過ぎて思考能力が落ちているのか!?形製達はまだか・・・」 「不動さん!!!」 「酷い・・・!!」 「形製!!春咲!!ようやく来たか!!」 「春咲・・・?」 男の言葉の中に何処かで聞いた名前があった山門は、自分の後方から聞こえた2人の女性の声に目を向ける。 そこに居たのは、かつて救済委員事件の元凶の1人として無期限停職を言い渡された風紀委員。その隣には、常盤台中学の制服を着た少女も居た。 「春咲!!お前は椎倉先輩達の手当てを!!形製!!お前は『赤外子機 パルスチルドレン 』越しに戦場の把握及び指示を頼む!!」 「わかりました!!」 「了解!!」 男の指示に、少女2人―春咲桜と形製流麗―は確と応える。急に現れた乱入者に戸惑っている駆動鎧及び“手駒達”。そこに、更なる乱入者が現れる。 ゴオオオオオオォォォッッ!!!!! それは、水。成瀬台高校に設置されているプールの水全てを引っこ抜いて現れた碧髪の少女・・・“激涙の女王”水楯涙簾。 渦潮となって暴れ狂う水流は、少女の怒りの程を表しているかのようだった。追加された乱入者に、『ブラックウィザード』の一群は気を取られる。 「水楯も準備ができたか!!よし!!」 「あ、あなたは・・・」 仲間の加勢に気合いを入れ直す男に、山門は声を掛ける。そんな少女の足に被さっている瓦礫を、水楯に敵が気を取られている隙に男は取っ払う。 「今は、私のことよりも自分の体のことを心配しろ。後は、私達に任せろ!!それにしても、私と得世との死闘以外で校舎が破壊される姿を目の当たりにすることになるとはな。 2学期からは、私達に青空教室をしろとでも言うのか!!?『ブラックウィザード』め・・・!!許し難し!!!」 「あ、青空教室・・・?」 愚痴の内容が、何処か世間話をしている風に聞き取れた山門が疑問を発するが、男は気にも留めない。ここは戦場。これ以上の無駄口を叩いている暇は無い。 『ブラックウィザード』が見誤っていたとすれば・・・それは“『シンボル』の詐欺師”を過大評価していたこと。 かつて、“閃光の英雄”と互角の死闘を繰り広げていた“猛獣”・・・不動真刺の存在を過小評価していたこと。 リーダー格である界刺得世の指示や命令が無くとも・・・界刺得世の意思・意志から外れようとも・・・『シンボル』は組織としての行動を迷い無く取れるということに気付かなかったこと。 「では、これより鎮圧行動を開始する!!我が学び舎に危害を加えた・・・それだけで私が戦う理由には事足りる!!この不動真刺が、貴様等を成敗してくれよう!!!」 continue!!
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時は夕暮れ。オレンジ色の日光が窓を透過して差し込んでくる会議室には、非常に重苦しい空気が流れていた。 場所は成瀬台高校の会議室。ここには、各支部員達がある連絡が届くことを待ち続けていた。 そして・・・その時は来た。勢い良く会議室の扉を開けて入って来た橙山の口から、病院へ搬送された176支部リーダー加賀美雅の容態が報告される。 「加賀美は大丈夫っしょ!!意識もちゃんとある!!背骨や各内臓に損傷は無し!!明後日くらいには退院できるっしょ!!」 「ほ、本当ですか!!?」 「緋花・・・私が嘘を言うわけ無いっしょ!!?」 「緋花ちゃん・・・よ、良かった・・・良かったね・・・!!!」 「うん・・・うん・・・!!!」 「斑先輩・・・!!緊迫した状況下できっちり能力を制御できるなんて・・・見直しましたよ!!エリートの名は伊達じゃ無いですね!!」 「・・・ま、まぁな」 自分達のリーダーが無事なのを知った176支部の焔火と葉原は、涙させ浮かばせながら安堵した。 一方、加賀美の命令とは言え彼女をそんな状態にした斑は、鳥羽からの称賛にも歯切れの悪い返事を返すのがやっとだった。 「橙山先生。ありがとうございました」 「私は別に何もしていないっしょ!!あっ、そうそう。一色と鏡星には、今日はこっちに戻る必要は無いって伝えといたっしょ!! あの子達もリーダーに付き添いたいでしょうし。別に良かったわよね、椎倉?」 「はい。問題無いです」 橙山からの追加報告を受ける椎倉。彼は、先程から難しい顔をしていた。その顔は、今尚崩れていない。その理由は、すぐにわかる。 「・・・では、これより176支部と178支部が遭遇した例の殺人鬼に関する報告をして貰う。浮草・・・よろしく」 「・・・・・・あぁ」 椎倉と同じくらい顔が強張っている浮草が、重い口を開く。ここに居る風紀委員の誰もが予想していなかった、早過ぎる邂逅。 その一部始終を、死者が1人も出なかった結果とそこに至る過程を、確と己が胸に刻み込むように一同は静かに報告を聞く。 「・・・以上だ。俺達に死者が出なかったのは、おそらく奴の依頼主らしき人間の頼みによるものだ。でなければ、俺達が全滅していた可能性は・・・高い」 「・・・・・・ふぅ。成程・・・わかった。もういいぞ、浮草?」 「・・・あぁ」 報告は一通り終了した。そこから見えて来たのは、殺人鬼の桁外れの実力。そして、176支部の身勝手さ。 「・・・神谷」 「・・・はい」 「何故加賀美の指示に従わなかった?」 一番の問題点。それは、リーダーである加賀美が許可する所か制止を掛けているのに、部下である神谷達がそれを無視したこと。 「・・・」 「・・・正直に話せ。その時抱いていたお前の思考を」 「・・・・・・あんな殺人鬼を野放しにするために俺は風紀委員になったんじゃ無い。・・・そう思いました」 憮然としている神谷の表情が全てを物語っている。それ程の思いを抱いていながら、みすみす取り逃がしてしまった現実に神谷は歯噛みしているのだ。 「・・・俺の命令は覚えていたのか?」 「・・・はい」 「加賀美の制止を振り切ってでも、その思いを貫きたかったのか?」 「・・・はい」 「・・・そうか」 短い問答が終わる。そして、決断を下す。今の状況に最適な決断を。 「明日・明後日の巡回に176支部が参加することを禁じる。リーダーである加賀美も入院していることだしな。お前達には事務作業をこなして貰う。いいな?」 「・・・了解」 176支部を代表して神谷が承諾の意思を示す。常のように反論はしない。失態を演じた者達に、結果を残せなかった人間に反論する権利等与えられる筈も無い。 「・・・これは俺の独り言だ。別に聞かなくてもいい。聞く気が無い人間が聞いても無駄だからな」 椎倉が皆に聞こえるくらいの声で独り言を漏らし始める。 「俺達風紀委員は1つの治安組織だ。警備員もそう。そして、組織である以上指揮系統というのは必ず存在する。 それが乱れれば、その組織は組織で無くなる。唯の寄せ集めの集団・・・烏合の衆と化す」 風紀委員。学園都市における治安組織の1つ。生徒によって構成された、子供達の組織。 「特に、今回のように風紀委員会程の大きな物になれば、指揮系統の重要性は否が応でも増す。それなのに、その指揮系統を司るリーダーの指示を無視する?ふざけるな!!!」 ドン!!! 衝突音。それは、椎倉がテーブルを叩き付けた音。 「俺達は何のためにここに居る?最優先課題は何だ!?人の命を守るため?殺人鬼を捕まえるため?・・・違う!!! 俺達風紀委員会に居る者にとっての最優先課題は・・・『ブラックウィザード』の殲滅だ!!!」 「「「「「!!!!!」」」」」 椎倉の発言に、他の風紀委員が驚愕する。彼の言っていることは、一般人の命より『ブラックウィザード』の殲滅が重要だと言っているのだ。 「・・・それで、風紀委員って言えんのかよ・・・?」 この言葉に黙っていられない人間は居る。その1人である神谷は、怒りの視線を椎倉に向ける。 「俺達風紀委員が一番に守らなきゃなんねぇのは、この学園都市に住む人達なんじゃねぇのか!!?」 「・・・今回は違う!!」 「どう違うってんだよ!!?」 「神谷先輩!!お、落ち着いて・・・!!」 激昂して立ち上がった神谷を葉原が宥めようとするが、そんな小細工でこの男が止まる筈が無い。 「・・・いいだろう。良い機会だ。教えてやる」 「椎倉先輩・・・!?」 対する椎倉も、神谷の激昂に応じるかのように立ち上がる。隣に座る初瀬の反応を無視して、椎倉は神谷の前に立った。 「神谷。俺達が風紀委員会まで立ち上げた理由を言ってみろ」 「・・・『ブラックウィザード』っていう大型のスキルアウトが中毒性の高い薬を売り捌いて・・・その中から“手駒達”って言う兵隊を作って・・・」 「そうだな。その被害がこれ以上広がらないように風紀委員会を立ち上げた。 つまりは、『ブラックウィザード』の魔手にこれ以上一般人が巻き込まれないように俺達風紀委員は立ち上がった。 俺が言いたいことが何かわかるか?それ以外の案件等、今の俺達が抱えていいモンじゃ無い!!!」 「・・・!!!」 神谷の眼光に負けない程の視線をぶつける椎倉。 「俺達が『ブラックウィザード』の捜査に掛かり切りになってる今、俺達が本来行うべき管轄内の業務は他支部の協力を仰いでいることは知ってるな?」 「・・・はい」 「彼等だって自分の業務がある。それでも、彼等は俺達に協力してくれている。内心どう思っていようがな。 全ては、『ブラックウィザード』の暴走がこれ以上広がらないように。その思いを胸に、俺達も他支部の人間も頑張っている。違うか!?」 「・・・・・・」 夏休みと言えど、風紀委員の仕事は存在する。だが、成瀬台支部等『ブラックウィザード』に関わる支部は現在通常の業務を殆ど中断しているのだ。 一般業務を抱えていては、『ブラックウィザード』を抑え切ることはできない。そういう判断が下されたのだ。 故に、一般業務を『ブラックウィザード』とは関係無い他支部に面倒を見て貰っている。全ては、『ブラックウィザード』を打倒するために。 「俺達が今やっている案件も、お前の言う通り学園都市の人間を守るためのものだ!!命に優先順位を付けることは本来ならできないし、するべきでも無い!! だが、今は違う!!優先順位を付けなければならない!!でなければ、俺達の命さえ危うくなるぞ!!?」 「・・・それで、風紀委員って名乗れんのかよ・・・?」 「そうだ!!これが風紀委員だ!!人間1人の力で守れるものなんて、たかが知れている。それを、風紀委員という組織の力として運用することで守れる範囲を広げている!! だが、全部を守れるわけじゃ無い。限界はある。だったら、組織として最大限に守れる力を発揮するために・・・時には優先順位を付ける時もある。必ずある!!」 「・・・クッ」 「それが認められないというのなら・・・風紀委員を辞めるんだな。界刺にも言われたんだろう?“風紀委員もどき”とな」 「!!!」 『テメェ等・・・何時までおんぶにだっこに興じてるつもりだ?自由ってのは、責任を負わないことじゃ無ぇぞ? こんな部下(した)ばっかりじゃあ、加賀美(うえ)は可哀想だな。部下の不始末の責任を負わされて、振り回されて、苦しんで・・・。 テメェ等みてぇなのは風紀委員とは言わねぇ。そこらの“不良”と何ら変わらねぇドチンピラだ。そんなに好き勝手やりたきゃ、風紀委員を辞めるんだな。 俺等のようなボランティア形式で学園都市の治安でも守ってろよ。今のテメェ等より、俺等(ボランティア)の方がよっぽどいい仕事してるぜ? ったく情けねぇな・・・“風紀委員もどき”?まぁ、俺にとってはどうでもいいけど』 神谷は午前中に会った“詐欺師ヒーロー”の姿を思い出す。その言葉も一緒に。 『風紀委員のような「偽善者」共の巣窟に身を置いて守れるもの等何一つ無い』 そして・・・かつての親友が自分に対して放った言葉も。 「・・・なぁ、椎倉先輩?」 「・・・何だ?」 「風紀委員ってのは・・・正義じゃ無ぇんだな」 「・・・お前は、風紀委員そのものに自分の正義を預けるのか?」 「ッッ!!」 椎倉が神谷の胸倉を掴む。 「確かに、俺にも時々わからなくなる。風紀委員というのは何なのか?本当に人を守れる存在なのか?風紀委員は・・・正義なのか? 俺も風紀委員としての矜持くらいは持っている。風紀委員が行うことは絶対に正しいと考える時もザラにある。 だが・・・人間誰だって間違える。何かを信じられなくなる時もザラにある。だから・・・自分の正義は自分で決める。何かに預けたりはしない」 「だったら・・・!!」 「だが、今回お前達がやったことは正義でも何でも無い!!唯の暴走だ!!自分の正義を貫くための最善の行動を取らなかったお前達が、殺人鬼に敗北するのは当たり前だ!!」 「!!!」 結果と過程。結果が『自分の信念や正義を貫き通した』と定義するなら、過程は『自分の信念や正義を貫き通すための行動』と定義できる。 「偶然とは言え、お前達には幾らでもチャンスがあった筈だ。自分達の正義や信念を貫くために取れる行動が!!加賀美も言ったんだろう!?今は退くべきだと!!」 「俺等があの殺し屋に勝てないって言いてぇのか!?」 「そうだ!!現状ではな!!」 「・・・『部下を信じている』のは口先だけの加賀美先輩と同じだな。いざって時は部下の力を信じない・・・」 「そんな上司を死ぬ危険に合わせたのは部下のお前達だろうが!!!!!」 ボコッ!!! 「椎倉!!お前も落ち着け!!」 「ハァ・・・ハァ・・・」 「・・・・・・」 破輩の大声が会議室に響く中、2人の男は互いに視線を逸らさない。 「もし、加賀美が部下を信じていないとすれば、お前達も上司である加賀美を信じていない!! 加賀美の判断を無視し、暴走し、結果として彼女を入院させたのは部下であるお前達が原因の1つだ!!決して、殺人鬼のせいだけじゃ無い!!!」 「・・・・・・クッ」 「加賀美は、お前達を縛り付けるようなリーダーだったのか?お前達の意見を無視するような人間だったのか? 彼女は、本当に部下であるお前達を信じない少女だったのか?・・・どうなんだ、神谷!!?」 椎倉の容赦無い言葉が神谷に突き刺さる。本当はわかっていたこと。加賀美という少女が悩んでいることも全部知っていた。 それを、見て見ぬ振りをして来たのは自分。彼女に甘え、自分のやりたいようにやって来たツケがこの失態であることは、もうわかり切っていた。 だから、神谷は正直に答える。これ以上、自分にも彼女にも嘘を付きたくなかったから。 「・・・違う。加賀美先輩は・・・俺達を信じてくれる人だった。俺達を・・・尊重してくれる人だった」 「神谷・・・!!」 「神谷先輩・・・!!」 ぶっきらぼうな彼の本音に、斑と葉原が瞠目する。 「・・・そうか。・・・わかった。では、これより実際に戦闘を行った176支部の面々の意見を参考に、殺人鬼への対策を検討する!!」 「はぁ!?し、椎倉先輩!?さっきと言ってることが・・・!?」 椎倉の言葉に、神谷は疑問符しか思い浮かばない。『ブラックウィザード』と関係無い案件は無視すると言っていた筈では・・・。 「何言ってるんだ、神谷?その殺人鬼は『ブラックウィザード』の周辺をうろついているんだろ? いずれ、再び対峙する可能性もある。止むを得なく戦闘する可能性も否定できない。だったら、今回の戦闘で得た貴重な情報を元に対策を考えるのは当然のことだろう? お前が何を勘違いしているかは知らんが、優先順位を付けるとは言っても無視をするなんてことは一言も言ってないぞ、俺は?」 「で、でも『それ以外の案件等、今の俺達が抱えていいモンじゃ無い!!!』って・・・」 「何時俺が『それ以外の案件』に殺人鬼を含めているなんて言ったんだ?あの殺人鬼は、『ブラックウィザード』の捜査に間接的に関わって来る不確定要素じゃないか。 同じく、一般人の命を守るというのも無視はしないぞ?風紀委員として、1人の人間として。時と場合によっては、優先順位が変動するだろうが」 「・・・・・・」 「最近は、この手のことが多く続いているな。俺も・・・お前も」 一杯喰わされた。そう、神谷は素直に思う。椎倉の言う通り、最近はこの手のことが立て続けに起きているような気がする。 「・・・これが、自分の正義や信念を貫く行動と言うんだ。色んな障害が立ち塞がる中で、少しでも自分の在り方を貫くためには考えるしか無い。 必死になって考え続けるしか無い。闇雲に進んでいても限界はすぐに来るぞ?そうやって・・・界刺や固地はお前の何歩も先を進んでいる。 あいつ等の在り方が全部正しいとは思わない。だが、あいつ等なりに悩み苦しみ抜いた結果があれなんだろう。あれは、一朝一夕で身に付くモンじゃ無い。 神谷。お前が今後も風紀委員として自分の正義・信念を貫きたければ、お前も必死になって考えろ。上司に甘えず・・・自分の力で!!」 「・・・・・・了解」 神谷は首肯する。今までは、加賀美の性格や方針に心の何処かで甘えていた。だが、何時までもこのままでは居られない。 それが原因で、加賀美が入院する羽目になったのだ。これは、部下である自分達の怠慢。 自分が風紀委員として正義を貫き通すためにはどうすればいいのか、神谷稜は真剣に考えることを決断する。かつて分かれた親友と別の道を歩むためにも。 「よし!それじゃあ、具体的な検討に入るとしよう。神谷!!それ以外のメンバーも!! お前達が抱いた感想や疑問に思ったことを全部話してくれ!!でなければ、対策も何も無いからな!!」 「近場で戦ったのは緋花ちゃんと神谷先輩です。緋花ちゃん!!」 「え、えぇ・・・。え~と・・・」 「ふむふむ・・・」 実際に戦闘した176支部の面々の意見を中心に、離れた位置で観察していた178支部の観点も加え、議論は進められて行く。その結果・・・ 「・・・何だ、この化物っぷりの数々は!!?」 椎倉の一言が全員の感想でもあった。 「・・・ここは、最近活躍目覚しいリンリンに頑張って貰うか!!風輪の騒動でも大金星を挙げたし。なぁ、リンリン?」 「ブッ!!む、無茶言わないで下さいよ、破輩先輩!!もし、この糸が先輩達の考えてる人工的な蜘蛛糸だったとして、私の『物質操作』じゃ馬力が全然足らないと思います。 銃弾みたいに一度発射されたらそれ以降の運動エネルギーが減少するのとは違って、この殺人鬼の場合は幾らでも糸を操作できるっぽいですし」 「でも、干渉はできるだろ?」 「できますけど・・・私1人じゃ振り切られる可能性が大ですね。さっきも言いましたけど、私の『物質操作』は精密さには優れていても馬力という面では不足気味です。 加賀美先輩が操作する大量の水を完全に封じ込めたって所から見ても、能力の馬力がそもそも桁違いです。直接的な能力のぶつかり合いは、持てる馬力が物を言いますから。 そんなことを言うなら、破輩先輩の『疾風旋風』で吹っ飛ばしてしまえばいいじゃないですか?束ねられる風なら斑君より上ですよね?」 「・・・蜘蛛糸は竜巻でも耐え得る性質がある。斑への対処を見る限り、きっと私の能力は通じない。地面そのものを吹っ飛ばせられるわけじゃ無いからな。 もし通じたとしても、決定打にはなり得ない。この殺人鬼との戦闘では・・・私は役に立たない可能性が高い」 「妃里嶺・・・」 「心配そうな顔をするな、記立。私は、冷静に現状からわかっている情報で判断できることを言葉にしているだけだ。 まぁ、他の連中を離脱させるくらいの働きはできるだろうさ。この殺人鬼に通じないとして、それを理由に怠けるつもりは無いからな」 「・・・少し変わったわね、妃里嶺」 「そうか?」 「ぶっちゃけ、蜘蛛糸ってのがとんでもない性質を幾つも持ってやがるんだよな。卑怯クセー。 風輪(ウチ)の時も何でもアリな奴とバトったけど、あいつと違ってこいつは本物の殺人鬼だからな。善悪なんてモンをハナっからブッ飛ばしてやがる」 「鉄枷の言う通りですね。生まれ持った才能とは言え、これ程の力を示されると私でも天の采配に疑問を抱きたくなりますよ」 159支部の面々のやり取り。 「確か・・・蜘蛛糸ってのはタンパク質を材料にしているんですよね、浮草先輩?」 「あぁ。そのタンパク質は、人間の体内にも存在する。きっと、それを使って蜘蛛糸を作成する能力者なんだろう」 「分類的には肉体系能力者・・・かな?・・・。見たことも聞いたことも無い能力ですけどね。・・・。 糸をずっと浮遊させられる点を考えると、念動力系能力が思い浮かんじゃいますけど」 「・・・やっぱり駄目ですね、椎倉先輩。改めて調べてみましたけど、『書庫』に登録されている人間にこの殺人鬼と符号するデータは見当たりません」 「そうか・・・。体内にあるタンパク質を材料としているのなら、その貯蔵量が尽きれば糸は出せないと見るべきか・・・。 だが、神谷達の戦闘を見る限りその縛りはあって無いようなモノかもしれん。材料を補給する手段が無いとも限らないしな。 にしても、空中を浮遊する?浮遊・・・浮遊・・・・・・まさか、蜘蛛糸自体を念動力で作成したりしているのか!? 念動力が『タンパク質を用いた蜘蛛糸の作成・操作』だけに限定されているのならばアミノ酸の大きさでも不可能では無いし、空中をずっと浮遊している理由付けもできるが。 肉体系とも念動力系とも取れる特殊にも特殊な能力者・・・か。本当に見たことも聞いたことも無い事例だが・・・だとすると益々厄介だぞ? 糸そのものが蜘蛛糸の性質以上に強固に構築されている可能性が高いし、念動力の性質上操作の利便性が格段に跳ね上がる」 178支部及び成瀬台支部のやり取り。 「このさつじんきって、そらひめ先輩でも勝てないんですかー!!?」 「そんなモン、やってみなきゃわかんえぇだろ!!」 「正直な話、これくらい色んなことができる能力者となると・・・美魁でもマズイかも」 「この男を無重量空間に捕えたとして・・・その後の対処如何では美魁でもマズイかも」 「牡丹!?撫子まで!?あたしの力を信じられないって・・・痛っ!・・・冠先輩・・・」 「落ち着け、閨秀。ようは、舐めて掛かるとやられるって言いたいんだよ」 「さすが冠先輩!!こんな時でも落ち着いたままでいられるなんて!!」 「(・・・冠先輩の手から汗の匂いがプンプンしてきたことは、この際言わないでおこう)」 花盛支部のやり取り。 「緋花ちゃんと姫空ちゃんの見立てが正しいとすると、この殺人鬼って雷速や光速の攻撃を何度も避けることができるんだよね?・・・そんなのって有り得るのかなぁ?」 「神谷のような反射神経を持っているとすれば、あるいは・・・」 「無茶言ってんじゃ無ぇよ、斑。俺だって雷速や光速の攻撃をそのまま避けたりできるか!!」 「そういえば、神谷先輩って緋花ちゃんと模擬試合的なことをした時に、緋花ちゃんの電撃をかわしていましたよね?あれは、どうやって?」 「それは、焔火の電撃を放つ前の前兆みたいなのを見切っていたんだ。『電撃使い』って、そういう前兆がわかりやすいっていうか・・・『閃光真剣』を操る俺からしたらだけど。 後は、もう本能的な感じだな。反射神経とかそんなレベルの話になって来る」 「でも、私がやった電撃の槍ってタメ無しでしたよ?しかも、常に電流を纏っているみたいな感じですから、前兆みたいなのがあったとしてもわかりにくいと思うんですけど」 「俺はあの殺人鬼じゃ無いからわからねぇよ。・・・唯、あの反応を見ると奴のは反射神経的なモンだと俺は思う。攻撃が発生する前から回避行動を取ってるみてぇな」 「俺としては、緋花さんより姫空さんのレーザーを見もしないのに避けたって方が気になりますね。今まで見せたことが無かった攻撃なのに」 「・・・・・・くそっ」 「ビクッ!た、確かに・・・。鳥羽君の言う通り、姫空ちゃんに背を向けていながら今まで見せたことの無い『光子照射』をかわしたっていうのは、 反射神経とかのレベルじゃ無い気がするね。一体、どんなタネを使ってるんだろう?」 「予知能力者でも無いだろうし・・・。本能的・・・って言ったら対処の仕様が無いし。ゆかりっちはどう思う?」 「私も緋花ちゃんと同じ意見だよ。本能的なんて言い出したら、この殺人鬼は死角からの攻撃さえ簡単に対処できるって話になる。しかも、雷速や光速の攻撃でさえ」 176支部のやり取り。そうして、一同は再び席に着く。 「・・・蜘蛛糸は決して万能じゃ無い。例えば電気は通すし、相当高い温度には耐え切れない。 能力的に言うなら、『発火能力』や『電撃使い』系統の能力者ならば十分に対抗可能だ。 姫空みたいなレーザー系能力者や空間移動系能力者、場合によっては念動力系や精神系も同じく。・・・能力的には・・・な」 椎倉は具体例を挙げながら説明を重ねて行く。今後の方針を決める重要なプロセスであるがために。 「だが、それは普通の蜘蛛糸の場合だ。奴の能力では、糸の太さや量も自由自在に操作できる。性質までは誤魔化せないだろうが、それを強化することは可能だろう。 また、蜘蛛糸自体が体内のタンパク質と念動力にて作成・操作されている可能性も低くない。その場合、俺達が所持する能力では一部を除いて奴の能力に打ち勝つのは困難だろう。 加えて、176支部との戦闘でもわかる通り単純な能力だけでは無い戦闘力も図抜けている以上、正面からの戦闘は避けるべきだ。俺達にとって、奴は優先順位が低い人間だからな。 但し、今回の戦闘を経て奴が俺達に牙を向けて来ないとも限らない。だから・・・これは厳命だ。向こうから仕掛けて来た場合に限って戦闘を認める!! これは、殺人鬼に勝つための戦闘じゃ無い。生き残りを懸けた戦闘だ!!殺人鬼(ヤツ)の巣から逃れるための・・・決死の行動ならば戦闘を認めよう。いいな、神谷!!?」 「・・・・・・・・・了解」 「他の176支部メンバーも・・・いいな!!?」 「「「・・・・・・はい」」」 椎倉の確認に、神谷・斑・焔火・姫空は承諾の意思を伝える。これは、神谷達の思いにも配慮した方針。 椎倉も神谷が言っていることの意味を十分に理解しているが、それでも優先順位を付けなければならない時はある。それが、今この時なのだ。 「橙山先生・・・」 「わっかてるっしょ!!警備員の方でも十分に注意して捜査するっしょ!!」 橙山は椎倉の意を汲んだ返答を行う。基本的に、この殺人鬼に関しては警備員を中心とした捜査を行うつもりである。 「忠告された時から一応覚悟みたいなものはしていたが・・・いざ直面してみるとふざけるなと言いたいくらいの反則っぷりだな。 こんな化物と単独で戦って生き残るだけでも驚愕モノなのに、どうやって勝つつもりなんだろな、破輩?」 「・・・光速の能力を自由自在に行使できる者にしか思い浮かべられない手段でもあるんじゃないか?」 「・・・かもな」 椎倉と破輩の会話には、ある主語が意図的に省かれていた。言わなくてもわかるからだ。 「では、今日の活動はこれにて終了だ。休暇明けから想定外・・・とは言えんが突発的なことが起きたから、皆疲れているだろう。各自、体調管理だけは怠るなよ?以上!!」 そうして、本日の風紀委員会活動は終了した。 「・・・ということなんです」 「・・・本当に、あいつが絡むと事が面倒臭くなるな」 大体の風紀委員が帰路に着く頃、成瀬台に残っているのは椎倉・橙山・破輩・閨秀・冠・葉原の6名。 この6名に共通するのは、内通者が誰なのかを知っているという点である。 実はここには居ない人間で、固地以外に後2人内通者が誰なのかを知っている者達が居るが、ワケあってその2人は同席していない。 また、その2人と橙山、オマケの緑川は椎倉の『真意解釈』等の精神系能力によってシロと判明している。 椎倉は、固地の見立てを信じこれ以上『真意解釈』を仲間に用いるつもりは無かった。 (椎倉自身は、『仲間に能力を行使するのはもう嫌だ』と冠に愚痴を零している。仲間に1回使うだけで気分が悪くなってしまうのだ) 「まさか、風路形慈が界刺を頼っていたなんてね・・・!!これは、予想外っしょ!!」 「あの場に風路が居たのか・・・!!しかも、それを私達に伝えないとは・・・!!界刺め・・・!!!」 「風路があたし達を頼らない理由もわかるけどよ・・・。よりにもよって、あの『シンボル』にかよ・・・!!」 「・・・つくづく風紀委員の面目を潰すのが好きな男のようだな、撚鴃?」 「・・・ハッ!!ま、まさか私を緋花ちゃん達に同行させるように動いていたのは、椎倉先輩にこの情報を伝えるのを少しでも遅らせるため!!?」 椎倉達は葉原からの報告を受けていた。風路形慈やその妹である鏡子、そして網枷双真のこと等を。 「・・・その可能性が高いな。風紀委員会に固地が参加している以上、風路のことを俺達が知らないとは限らないと踏んだ上での行動だな。 俺達が知れば、重要参考人としてすぐにでも風路の確保に向かう可能性を読んで、お前を自然に誘導したんだ。お前の心理状態を把握した上で」 「・・・!!や、やっぱり、あの人って恐い・・・!!」 「葉原。連中が何処に行くかはわかっているか?」 「そ、それが・・・。具体的な行き先の説明が無かったんです。ずっと、“ヒーロー戦隊”の設定をどうするかの議論ばっかりしてて・・・。 私も界刺先輩達の議論に振り回されて・・・。何処に向かうのかというのが何時の間にか自分の頭から消えてましたね」 「・・・・・・そ、そうか。ボランティア・・・施設・・・子供達・・・。おそらく、界刺達の向かう先は『置き去り』の施設だな」 「・・・“別件”で動いている寒村達と鉢合わせする可能性もあるっしょ?」 「かなり低いですけどね。一応、寒村には連絡を入れておきます」 “別件”・・・すなわち、『置き去り』を保護している施設の調査任務。寒村達は、現在この任務を遂行中なのである。 「・・・もしかしたら、固地の見立ては当たっているかもしれん。このタイミングで界刺が『置き去り』の施設に向かう・・・。偶然にしてはでき過ぎているな」 「・・・撚鴃。風路形慈についてはどうするつもりだ?」 「・・・界刺に任せよう。葉原の話を聞く限り、今はこちらからのアクションは逆効果でしか無い。 あの男なら、風路を変えることができるかもしれん。それに・・・風路の存在が『シンボル』参戦の切欠になるかもしれないしな」 「(そうか・・・!!だから、奴は今になって動き始めているのか!!風路が変わったその時にすぐにでも動けるように!! とすると・・・『マリンウォール』での“手駒達”の件を界刺がやったとして、その理由は何だ?まだ、風路とは出会っていない頃だが。・・・本当に私達を助けるため? いや、あいつに限ってそんなことは有り得ない。もし、それが理由だとしても他にも狙いがある筈だ。私達に貸しを作るとか、そういう類以上のモノが。 アンテナを奪い去ったのにも理由がある筈だし、固地が仕掛けた盗聴器等を発見・妨害、そして情報の抽出方法も気になる。 両方に共通するのは電波を用いている点だが、あいつには電波を操作する力は無い。電気系の苧環や月ノ宮の力を借りていた風にも見えなかったし。 やはり、専用の機械を用いた可能性は高い・・・が、それが何なのかがわからなければ話にならない!!)」 椎倉と冠の会話から破輩は“詐欺師”が動き始めた理由を看破するが、それ以上のこととなると途端に思考が回らなくなる。あの男に関する情報が不足しているために。 破輩もそうだが、風紀委員側は“変人”が小型アンテナを奪った(と仮定)目的と、盗聴器等への対抗手段を見極められないでいた。 両方に共通するのが電波である以上、機械等を用いて傍受やジャミングを行ったのだろうが、その具体的手段が不明なのだ。 「(受信機材のデータは、界刺が水楯と共に台所へ行った辺りから途切れていた。ジャミングが仕掛けられたのはその時。奴が“掃除”と称して部屋を調査した時じゃ無い。 台所では私達の目も届かない。対応のスムーズさから見て、あいつは最初からその手のことに関しては対策済みだったわけだ。 しかも、それを表に出さずにあの“3条件”をもぎ取る交渉をやってのけた。一杯どころじゃ無い喰わせっぷりだな)」 固地の仕掛けた機械の受信機材に送られていたデータは、水楯と共にあの男が食器を台所へ持って行った辺りから途絶えていた。 つまり、その時から電波のジャミングが行われており、盗聴器等の存在に気付いていたのにも関わらずそれを明かさずに、後の交渉を有利に運ぶための材料としたのだ。 「(アンテナの方にも不可解な点がある。あの男・・・アンテナ内部にあるデータの解析でもするつもりなのか? あれは私達の方でも専門家に依頼して分析して貰っているが、数個程度では余り意味が無いらしいからな。アンテナごとに受信する電波の種類が違っているようだし。 仮に奴が傍受やジャミングの機能がある機械を所持していたとして、何故そのアンテナを持ち去る必要がある?その場でやってしまえば話は済むことだし。・・・まてよ。 もし・・・もし、あいつが私達より多くのアンテナを保持していたとする。奴は、以前より“手駒達”と戦闘していたらしいからな。可能性は十分に考えられる。 あいつ・・・まさかアンテナごとに違う電波の種類や性質を分析して、それ等に対する対抗手段を編み出すつもりか?一々傍受してでは無く、最初から一気にジャミングを!? だが、それには専用の機材と専門の知識・技術が必要だ。あいつに機材があったとしても、知識や技術自体があるのか? いや・・・唯の光学系能力者であるあいつには、そんな知識や技術がある可能性の方が低い。佐野でもあるまいし。誰かの助力を仰いでいると見た方がまだ妥当だ。 フッ・・・それが誰なのかがわからないんだからな。どんな機械を用いているのかもわからないし。 ふぅ・・・わからないことだらけというのは、かなり堪えるな。風輪の時にしろ、今回にしろ)」 破輩は先月に起きた風輪の騒動の内容を思い出し、それと似た現状にげんなりする。 ある意味、それ以上にわからないことが多いかもしれない。あの“変人”にしろ、『ブラックウィザード』にしろ。 「(とにかく、奴の交友関係や手札が読めないのが大きな問題だ。こんなことなら、午前中に会った時にあいつから情報をもっと引き出しておくべきだった!! 子供達に譲ったばっかりに・・・うん?ま、まさか・・・あれは私の追及を逃れるために、わざと子供達を焚き付けたのか!?・・・いや、それは然程大きい問題じゃ無いな。 偶然にしろ狙ってのことにしろ、追及から逃れたことには変わりないし。狙ってのことなら・・・頭が働き過ぎだろとツッコミの1つ2つを入れてやりたい。 一厘から聞き出すという手段もあるにはあるが、あいつは頑として口を割らない。惚れた弱みもあるだろうが・・・何より“3条件”が邪魔だ!!“詐欺師”め・・・!! あいつが厄介なのは一昨日の件からも十分わかっていたが・・・人の機敏に聡いのはわかっていたが・・・腹が立って仕方無い!!よし、今度不動に文句を言ってやる!!)」 「・・・何ていうか複雑だな。あたし達より界刺を選んだってのが・・・。ハァ・・・あたし達ってそんなに頼りないかなぁ・・・?」 「だったら、頼りになる存在と思われるように頑張るしかないぞ?私達にできることは、日々努力を積み重ねることだけだ」 「・・・私も冠と同意見だな。結局はやるしかないんだよ。負けたくなければ・・・頑張るしかない。私も、ずっと頭を動かし続けているぞ?苦戦続きだけどな」 「・・・了解」 議論は程なくして終盤に差し掛かる。各自共に疲れているが故に。 「風路鏡子の情報は、もう一度洗い直しておいた方がいいな。彼女が、『ブラックウィザード』の“手駒達”として動いている可能性は高い」 「・・・もしそいつがあたし達と戦闘になった場合はどうするんすか、椎倉先輩?」 鏡子の情報の洗い直しを決める椎倉に、閨秀が問いを発する。きっと、閨秀が考える危惧はこの場に居る全員が考えている筈だから。 「・・・下手をすれば、彼女を救い出そうとする風路と界刺達『シンボル』との戦闘に発展する可能性も・・・否定できないっしょ?」 「・・・・・・俺にもわからん!!できるなら彼女を穏便な方法で確保したい所だが、時と場合によっては重傷を負わすことも避けられないかもしれん!! そのせいで界刺達と戦闘になれば・・・なれ・・・・・・なりたくは無いな。それだけは、絶対に避けなければならない!! 『ブラックウィザード』と不確定要素満載の殺人鬼に『シンボル』まで敵に回せば、間違い無く俺達はやられるぞ? しかも、“3条件”があるからな。いざという時は、連中はゴリ押し可能だ。元が人助けだからな!!あの“詐欺師”なら何とでもするだろう!!」 椎倉達が頭を悩ませているのは、鏡子を助け出すために風路と『シンボル』が風紀委員の行動を阻害する可能性があることについてである。 “3条件”は解釈次第で『シンボル』・風紀委員のどちらにも傾くとは言え、あの“詐欺師”が『本気』ならゴリ押ししてくるのは間違い無い。 「・・・界刺はここぞと言う時は絶対に容赦しないとは159支部(ウチ)の一厘の証言だが、私達を敵に回すと一度決めたら容赦はしないんだろうな」 「連中は私達風紀委員の味方というわけでは無いからな。しかし、明確な敵でも無い・・・“第三者”のようなモノか。 この手の連中は本当に面倒臭い。当てにもなるし、当てにもならない。どっちつかずの、それでいて力を持った集団。今回の案件、連中の動きで成否が左右されかねないぞ?」 「人助けって言われたら、警備員でも突っ込み難いっしょ!!それに、『シンボル』が私達に味方する場合はこっちとしても願ったり叶ったりなのは確かだし!!」 「だから、風路を手元に置いておきたいのか!?自分達の行動を正当化するために!!・・・でも、それは風路を思っての行動でもあるってわけか。 あたし達としては連中が味方すればデカイし、敵対すれば厄介だ。つまり、風紀委員会と『ブラックウィザード』との対決に及ぼす影響も全部見極めての行動・・・。 くぅ~!!あんの“変人”め!!対決に参戦するにしろ参戦しないにしろ、あたし達を振り回せるだけ振り回した挙句に自分の目的だけはキッチリ果たすつもりだな!?」 「(寮に帰ったら、すぐに界刺先輩に連絡を取らないと。私は先輩に利用される覚悟はある。とりあえず、先輩が戦うって言う殺人鬼の情報を・・・)」 破輩・冠・橙山・閨秀・葉原がそれぞれの反応を示す中、椎倉はこれ以上の議論は話をややこしくするだけと判断し、こう告げる。 「とりあえず、この点についてはまた後日考えよう。今話し合っていてもどうせ纏まらない。破輩。一昨日の夜に連絡した件は明日からだ。緑川先生も準備はできたそうだ」 「わかった」 「よし。・・・今日は、もう帰ろう。俺も疲れた・・・」 「そうだね。そんじゃあ、皆気を付けて帰るっしょ!!」 「「「「はい!!」」」」 こうして、休暇明けの風紀委員会は完全に解散と相成った。 その頃、話題に挙がっていた“変人”はと言うと・・・ 「啄様!!これが、本場のキャンプファイヤーというヤツですか!!?」 「その通りだ!!やはり、キャンプと言えばキャンプファイヤーだろう!!?ハーハッハッハ!!!」 「志道様!!ゲコ太様!!形慈様!!何故焚き火の周囲で体育座りをしながらブツブツ話し合って居られるんですか!?」 「焚き火は、一種の神秘なのさ・・・」 「焚き火とは、一種の人生でござる・・・」 「焚き火ってのは、一種の魔力だぜ・・・」 「???つ、つまり・・・?」 「「「焚き火っていいよなぁ~」」」 「免力君~。葉原先輩にメールしないの~?あれだけ一生懸命に文章とかを考えていたのにさ~?」 「・・・・・・さ、さすがに今日はね。・・・・・・葉原先輩も忙しいだろうし」 「ムシャムシャムシャ(このカレーライス、おいしい~)」 「お、お兄さん・・・。お、お風呂とかってどうしたらいいのかな?あたし、汗で服がベトベトなんだけど・・・」 「知るか。俺なんて汗が滝のように流れてるっつーの!現在進行中で!!」 ある廃墟の近くでキャンプをしていた。様々な悩みを抱えている風紀委員に比べて、こいつ等の能天気ぶりと言ったら・・・である。 ちなみに、“カワズ”の行動について椎倉は勘違いしている。確かに、“カワズ”は『置き去り』の施設にボランティアとして向かう予定だ。 だが、これは完全に偶然である。ゲコ太の頼みが無ければ、“カワズ”は『置き去り』の施設に向かおうとは思わなかった。 そして、“手駒達”の供給源として『置き去り』が利用されていると“カワズ”は睨んだ(or知った)と椎倉は予想したが、そんなことを“カワズ”が知るわけが無い。 何故なら、“カワズ”は“手駒達”―正確には薬物中毒者―のこと等どうでもいいのだから。 薬物に頼る人間が大嫌いな“カワズ”は、一々その辺りまで調べない。調べる気すら無い。 “手駒達”のアンテナを奪っていたのは、あくまで『何かに利用できる日が来るかもしれない』という抽象的な思惑でしか無かった。 “カワズ”とて、『ブラックウィザード』のことを全部知っているわけが無い。そんな当たり前のことを椎倉達が気付かないわけが無いのだが、 今の椎倉達は完全に“カワズ”を過大評価してしまっている。日頃の行いが、如何に他人に影響を与えているのかがよくわかるシーンである。 ピロロロロロロロロ~ 「お兄さん?電話が鳴ってるよ?」 「みたいだね。んじゃ、ちょっと失れ・・・(ガシッ)」 「・・・ここでいいじゃん!」 「・・・我儘め」 林檎の我儘に溜息を吐きながら、“カワズ”は電話に出る。相手は・・・葉原ゆかり。色々思考を纏めつつ、“詐欺師ヒーロー”はスパイからの電話に出る。 continue!!
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「速見!!押花!!準備はできたか!!?」 「「OKです!!」」 「テント用品とかのレンタル料もそんなに高くなくて良かったよ。余り支部費を注ぎ込むわけにはいかないからね」 ここは、ある駅のチケット売り場前。椎倉により“別件”を任された成瀬台支部の寒村・勇路・速見・押花は、各々の背にリュックサック等を背負っている。 着ている服装も成瀬台の制服では無く、何処ぞの探検隊風の着衣となっていた。 「押花。貴殿が言う友達とやらとは連絡は着いたのか?」 「問題無いっす!!明日の朝、現地から少し離れた場所で合流予定っす!! フフッ、今に見てろよ・・・!!今回の任務で結果を出して、あの“変人”の鼻を明かしてやる!!」 「勇路先輩・・・押花君が・・・!!」 「恋とは、実っても破れても当人を変えるモノさ」 寒村の質問に押花が必要以上にやる気満々な声で答える。その様子に速見がただならぬ気配を感じ取り、しかし勇路は冷静に受け止める。 「では、これより“別件”任務を開始する。各々、気を抜くでないぞ!!?」 「「「了解!!」」」 寒村の檄に、他3名は声を合わせて応える。彼等に与えられた任務は、『ブラックウィザード』に関わる捜査で相当重要な位置を占めるモノである。 その重責に携われることを、彼等は誇りに感じている。同時に、絶対にやり遂げなければならないという強い使命感をもって任務に当たる。 切符を買った後に電車に乗る4名。彼等は、押花の伝手を用いて現地である人物達と合流することとなっている。 本来であれば、押花は“別件”任務から外れていた。(椎倉の)その判断を変更させた押花の伝手。風紀委員は、明日会う人物達に期待と不安の両方を抱きながら旅立って行った。 ここは、『マリンウォール』近くにある喫茶店。176支部の面々は、ここで軽い昼食を取っていた。 というか、軽食しか取れない状態と言った方が正しい。理由は言わずもがな。あの“詐欺師ヒーロー”のせいである。 「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」 「(な、何て重たい空気・・・!!)」 176支部リーダー加賀美は、思った以上にどんよりしている仲間の状態に些か以上に困惑する。 「(今まであんな風にズバっと一刀両断されたことが無かったから、私の想像以上にショックだったのかも・・・!!)」 176支部の中でも問題児集団と認識されている神谷・斑・鏡星・一色・姫空は、各々に欠点を抱えていた。 神谷ならぶっきらぼう+無茶ばっかり、斑はエリート意識が強過ぎ、鏡星はイケメン喰い、一色は女性喰い、姫空は神谷そっくりの無茶さ加減である。 最近はここに焔火までもが片足を突っ込んでいる状態なので、加賀美としては頭が痛い所では無かった(この中では、鏡星と一色はまだマシな方である)。 なまじ実力が高いこともあり、今まではそれでも何とかなって来た。幾ら苦情が寄せられようが、結果で周囲を黙らして来た。まるで、固地の“一面”を見るかのように。 そんな人間を一刀両断できるのは、同じく結果を出した人間・・・しかも揺るがぬ信念を抱く者だけである。 「(ある意味、あの人って緋花だけじゃなくて稜達も焚き付けたんだよね・・・ハッ!!それって、私の仕事量が増えただけなんじゃあ!!?)」 加賀美は気付く。これって、結局リーダーである自分の仕事が増えただけなのではないかということに。このクソ忙しい時に限って。 「(あ、あの人・・・!!さっき携帯の番号はゆかりに教えて貰ったし、こうなったら文句の1つでも言ってやらな・・・)」 「加賀美先輩・・・」 「う、うん!?な、何、丞介!?」 焔火の件だけならまだしも、それ以外の仕事も増やされた事実に加賀美がワナワナ震えている最中に、変態紳士である一色が声を発した。 「俺達って、加賀美先輩に何かしてます?」 「はっ?」 それは、予想外過ぎる一言。 「いやね、さっきからずっとあの“変人”が言ったことを考えてるんですけど、よくわかんないんですよ。 世の女性全てを愛して止まない俺が、加賀美先輩のご迷惑になるようなことをする筈ないじゃないですか!幽霊部員だった頃は、そりゃ迷惑を掛けましたけど。 でも、今は焔火ちゃんのおかげでバリバリ働いていますし!!他の人達は知りませんけど」 「(な、何て自分に都合のいい解釈をしてんの!?変態紳士か!?変態紳士的思考って言いたいのか!?)」 加賀美は一色の余りにも都合のいい解釈に心中でツッコミを入れる。働いてるって言っても、暇さえあれば通り掛かる女性に声を掛けてる(=ナンパ)のは何処のどいつだ!! そのくせ、男性を助ける時はやる気がダダ下がりになる悪癖は未だに直っていないのに!! 「・・・私も一色と同感だわ。幾ら私がイケメン喰いって言っても、ちゃんと巡回とか仕事とかはしてるし」 「(た、確かにしてるけど!!『逝けメン死すべし』って暴れる悪癖は直ってないし!!未だに177支部の巡回ルートに侵入したりしてるし!!)」 「フン。鏡星と気が合うのは珍しいな。エリートである私も、あの“変人”の言葉は理解できん。加賀美先輩の指示はちゃんとこなしているつもりだしな。 全く、部外者が好き勝手をほざくとは・・・何様のつもりだ?こうなれば、あの“変人”を風紀委員に刃向かう犯罪者として・・・」 「(それが一番マズイでしょーが!!!冗談だとしても、風紀委員が出していい言葉じゃ無いよ!?)」 「・・・・・・潰す」 「(『潰す』って何!?)」 「・・・・・・チッ」 「(稜はまだ自覚がありそうね。でも、自覚があっても止まらないのよね。・・・本当にこの中(神谷以外)に内通者が居るのかな?・・・居る・居ないを決め付けない方がいいわね。 今は、ちゃんと見極めることに集中しよう!!ここには居ない双真や帝釈も、これから注意深く見なきゃならないわ!! もし居たら・・・・・・その時は私も覚悟を決めないといけない!!どれだけ苦しくても、どれだけ痛くても、最後までやり遂げなきゃ!!)」 問題児集団の反応に、リーダーは心の中で立て続けにツッコミを入れる。これを言葉にできないのが、加賀美の欠点である。 ある一定のレベルまでは加賀美も注意や指導はできるのだが、そのレベルを超えると途端に言葉として表明することができなくなる・・・というかしなくなる。 故に、リーダーの力で問題児集団に歯止めを利かすことができないという大きな問題と化しているのだ。 加賀美としては、この欠点がもしかしたら内通者を生んだ可能性があるのではないかと考えていた。自分の悪癖は、今尚直っていない。 ならば、これは自業自得。責任は、リーダーである自分が取らなければならない。そう、悲愴な決意を固め始めていた。 「・・・・・・」 「緋花ちゃん・・・」 一方、焔火と葉原は加賀美達とは違うテーブルに腰を掛けている。単純に、座れる人数の関係からこうなっている。 「・・・ごめんね、ゆかりっち。何か私のことで気を遣わせてるみたいで」 「気にしなくていいよ。私が自分の考えでやってることだから」 2人は親友と呼べる間柄である。助けたり助けられたり。そんなことを繰り返しながら、互いに友情を育んでいった。 「・・・界刺さんに何か言われたの?」 「・・・言われたっていうか・・・独り言を延々と聞かされていたって感じかな?私を置いてけぼりにして」 「・・・クスッ。あの人らしいね」 「そうだね」 2人は、同時にジュースを喉に流し込む。この会話で焔火は確信を得た。葉原が、自分のことで界刺に何かしらのアクションを取ったことを。 葉原も気付いた。焔火が、自分と界刺の間で何かやり取りがあったことに薄々感付いていることに。だから、ある程度のことは正直に話すつもりでいた。 「・・・昨日?」 「・・・うん」 「・・・今日私が怒られたのもそれが関係しているの?」 「あれは・・・私も予想外。あの人は、緋花ちゃんに何もするつもりは無いって言ってたから」 「・・・ということは・・・」 「・・・」 「余程私の態度がムカついたってことなのかな?」 「・・・・・・かも」 2人の間に流れる空気は、何時の間にか冷たいものとなっていた。これは、断じて喫茶店にあるエアコンが送る冷風では無い。 「・・・ゆかりっちにはわかってるの?」 「・・・何が?」 「私の駄目な所」 言葉が冷たい。 「・・・うん。でも・・・言えない」 「・・・どうして?」 「・・・緋花ちゃんが自分の力で掴まないといけないから。これは、きっとそういうモノだと思う」 「それも・・・界刺さんの指示?」 「違う。これは、私の意志。・・・界刺先輩も同意見だったけど」 「・・・その言葉はさ、界刺さんの部屋に行った時も言われたんだ。『自分で答えを出してみなよ』って」 「そう・・・なんだ」 「・・・辛いね。・・・苦しいね。・・・それ以上に、自分の馬鹿さ加減が頭にくるわ・・・!!」 「緋花ちゃん・・・!!」 焔火は、自分の額に両手を持って行き、テーブルに肘を着ける体勢となる。 「・・・わかってるんだ。きっと、あの人は正しいんだってことは。ううん、正しさの1つを持っているってことは・・・か。 それに引き換え、私は間違ってばかり。まるで、出口の見えない迷路を彷徨っているみたい。リーダーも経験してるって言ってたけど、これはキツイよ」 「・・・本当にそう思ってるの?」 「・・・?」 葉原は踏み込む。最初くらい、あの人の力を借りずに自分の力だけで。 「緋花ちゃんは・・・界刺先輩の言ってることに本気で納得しているの?・・・私には言い訳がましく聞こえるんだ、今の緋花ちゃんの言葉って」 「ゆかりっち・・・」 「緋花ちゃん・・・。今日の午後だけでいいから、私に緋花ちゃんの本当の姿を見せて! 固地先輩の指導や緋花ちゃん自身の努力で身に付けた、今の緋花ちゃんの姿を!界刺先輩の言葉は気にしなくていいから! 緋花ちゃんが目指す在り方を、私はこの目で見たいの!私も、緋花ちゃんが目指そうとする在り方は正しいと思ってるから!!」 「!!!」 正しい。焔火緋花が目指す在り方は正しい。そう・・・言った。確かに、そう言った。己が親友・・・葉原ゆかりは。 「嘘じゃ無いよ?この気持ちは絶対に嘘なんかじゃ無い!!私は、緋花ちゃんならその在り方を見出せるって本気で信じてる!!」 「・・・!!」 「でも・・・今みたいに言い訳をしている緋花ちゃんじゃあ、きっと無理。何時まで経ってもその在り方に辿り着けない・・・そんな気がする」 「・・・言い訳・・・か」 「うん。おそらくだけど、このままじゃ無理だと思う。これ以上詳しくは言えないけど、今の緋花ちゃんじゃあ心に根付いちゃってる・・・その・・・あの・・・」 「・・・いいよ。思いっ切り言ってよ。その方が、私もスッキリする」 「・・・・・・幼稚な反抗期から抜け出すのは、本当に難しいと思う」 『テメェが独り善がりのクソガキだって事実は、何一つ変わっちゃいねぇ!!』 「・・・・・・フッ。フフッ。ゆかりっちにまで言われるとは・・・ね。・・・・・・・・・くそっ・・・!!!」 零した笑い声と漏れる言葉に、焔火が一体どんな感情を込めていたのか。葉原には量り切れない。 「・・・ごめん」 「ううん。謝らなくていいよ、ゆかりっち。だって、ゆかりっちは私の親友でしょ?親友が間違った方向に行こうとしてるなら、それを止めるのも親友の仕事でしょ?」 焔火は俯く顔を上げる。その表情には、ほんの少しばかりだが吹っ切れたような色が浮かんでいた。 「ハァ~。こんなにも色んな人に支えて貰ってるのにねぇ。本当に申し訳無いよ」 「・・・どうせわかってないでしょ?私や界刺先輩が言ってることの本当の意味を」 「・・・はい。ゆかりっちの言う通りです。我儘とか言ってるつもりは無いんだけどなぁ・・・・・・言ってる?」 「言ってる。しかも、無意識に。加えて、無意識に勘違いしたまま」 「・・・でも、最近はゆかりっちやリーダーにも連絡とか入れてるよ?単独行動を取る時は、ちゃんと仲間の許可を・・・」 「それも、もしかしたら独り善がりの成分が含まれてるかもしれない・・・そう界刺先輩は言っていたよ?」 「・・・マジ?」 「マジ。私も、先輩に指摘されて初めてそうかもって思ったことだから、今の緋花ちゃんには絶対わからないね。 でも、だからと言って私達に連絡を入れる必要は無いってわけじゃ無いよ?そこの違いは、緋花ちゃん自身が見極めないといけない」 『君達に連絡を入れたり許可を取ったりすること自体を、彼女のガキ部分が自分の行動に対する“免罪符”あるいは“言い訳”に利用しているのかもしれない。無意識的に。 これは面倒だよ?何せ、行為自体は否定される事柄じゃ無いから。唯、だからと言ってそれを暴走する“言い訳”に使うのは許されることじゃ無い。まっ、お気を付けて』 葉原は先輩から指摘された事柄を思い出す。確かに、目の前に居る今の少女の状態なら、“免罪符”or“言い訳”に使う可能性は大いに有り得る。これは要注意だ。 「ガクッ!!・・・くそぅ。私って本当に馬鹿」 「馬鹿だね。私も、緋花ちゃんがこんなに馬鹿だったなんて思いもしなかったよ」 「・・・ハッキリ言うねぇ」 「言ってもわからないんだから、言わなきゃもっとわからないでしょ?だったら、ハッキリ言ってあげた方がまだマシと思うけど?」 「・・・ごもっとも」 何時の間にか、冷たい空気は何処かに流れていった。今2人の間に流れているのは、温かかな空気。互いに本音をぶつけ合ったが故に生み出された、覚悟の証。 「・・・わかった。そんじゃ、午後からはゆかりっちに私の行動をチェックして貰おうかな?」 「ちゃんと見てるからね?」 「望む所。馬鹿馬鹿言われてる私だって、少しは成長してる所をゆかりっちに見せ付けてあげるんだから!!」 「フフッ。それは楽しみだね」 「・・・・・・ねぇ、ゆかりっち?」 「うん?」 「まさか・・・これも界刺さんの狙い通りってわけじゃ・・・無いよね?私とゆかりっちが、こうやって本音をぶつけ合うことも読んだ上での提案なわけ無いよね?」 「・・・わかんない。私は界刺先輩なら有り得るって思っちゃう。昨日や今日の言動を見てると」 「だって、あの人と会って話したことなんて数回程度だよ?」 「でも、そんな人に緋花ちゃんは丸裸にされてるみたいだけど?」 「ううぅ!!た、例え方が・・・!!で、でも、わかりやすい例え方だね。・・・恐いわぁ~、あの人。特に、真意が読めないって意味で」 「私も同感。界刺先輩は、絶対に敵に回したく無い相手だね~」 等というやり取りの後に、176支部の面々は喫茶店を後にする。ここからは、『ブラックウィザード』の捜査開始である。 「こうやって、浮草先輩と外回りするのって初めてです」 「そうだな・・・。俺は基本1人でブラブラしてるのが好きだからな」 「ブラブラ・・・?」 「・・・遊んでなんかいないからな?・・・基本的には(ボソッ)」 ランチタイムを終えた178支部の浮草と真面は、早速捜査を開始していた。 「・・・お前や殻衣は、固地が引っ張り回していたからな。固地のことだ。『あんな“お飾りリーダー”と居ても何も学べん」とか何とか言ってたんじゃないか?」 「・・・・・・」 「・・・本当に言ったのか?」 「・・・それに近いようなことは。『但し、あんな“お飾りリーダー”でも一応リーダーという席には座っているから必要な連絡等は入れるように』・・・とも言ってましたけど」 「ハァ・・・。本当にわかりやすい奴だな」 浮草は苦笑いを浮かべる。あの男程傲岸不遜な人間を浮草は知らない。 「・・・浮草先輩って固地先輩のこと嫌いですよね?」 「うん。嫌いだな。お前は?」 「嫌いです。ちなみに、殻衣ちゃんはどっちつかずみたいですね」 「秋雪は完全に嫌ってるな。下克はわからんが・・・固地を嫌っていない人間を探す方が難しいんじゃないか?」 「それにしては、一昨日の緊急会議の時や今日とか固地先輩を気遣ったり認めてるような言葉を言ってましたよね?」 「・・・一応リーダーだからな。他支部に向けて、せめてポーズくらいは取らないといけないだろう?仲間割れをしてる風に見られたら、それこそ捜査に支障が出ないか?」 「確かに。俺も焔火ちゃんが出向している時は、固地先輩をできるだけ立てていましたよ。特に、固地先輩の目が届かない時とか。 でも、そういう時に限って焔火ちゃんに固地先輩の悪辣非道なやり方をぶちまけようと心の何処かで思っちゃうんですよねぇ・・・。 まぁ、そんなことしたら絶対に固地先輩にバレると思いましたからやりませんでしたけど」 「・・・」 「・・・」 「「フフッ」」 2人同時に笑みを零す。固地がいないだけで、何と穏やかな気持ちになれることか。できることなら、この空気が何時までも続いてくれることを願わずにはいられない。 「一昨日の件で、“風紀委員の『悪鬼』”も少しは丸くなっていればいいんですけどねぇ」 「固地が“『悪鬼』”?そうかなあ~?俺は、あいつほど自分を偽り続ける哀れな奴はいないと思うよ。あれではいつか身を滅ぼす。一昨日のは、それが的中した形だな」 「『偽り続ける』・・・ですか?」 浮草の言葉に、真面が怪訝な視線を向ける。 「あぁ。偽る・・・というよりは仮面を被っていると言った所かな。“風紀委員の『悪鬼』”として内外から恐れられる固地債鬼・・・という仮面をね」 「あれが、全部ポーズだって言いたいんですか?」 「そうは思わないけど、固地の場合は自分の横暴な態度に対する他人のリアクションも計算している筈だ。それはもう仮面を被っていると言って差し支えは無い」 仮面。固地債鬼という仮面。その奥にある真の姿を、今の浮草はもう忘れてしまっている。元々固地は自分の内面を晒さない男だったから、余計に。 「あいつを昔から見てる俺でも、未だにあいつが心の底で何を考えているのかを全て把握しているとは言えない。・・・わかっていれば、あんなことには・・・(ボソッ)」 「・・・?ま、まぁ、他人の心を完璧に把握できるわけが無いですからね。読心能力でも無い限り」 「・・・それもそうだな。逆に、能力も無しに心の内を見透かされれば、それはそれで居心地も悪いな。下克でもあるまいし」 「ホント、そうですよ・・・・・・!!」 浮草の言葉に同意を示そうとした真面が、途中で口ごもる。浮草は、彼が言葉に詰まった理由に心当たりがあった。 「・・・あの“変人”のことか?」 「・・・はい」 「俺も、176支部の連中に対する奴の言動には驚かされた。固地とはまた違った意味で厄介だな」 「というと?」 「奴の場合は、真顔と仮面の境界があやふやなんだ。何時でも仮面を被るし、何時でも真顔になる。固地の場合は、ずっと仮面を被りっぱなしという体だが・・・。 奴はごく自然にあれを使いこなしてる。おそらく、誰が相手でも関係無い。まず、普通の人間には無理だ。なりたくも無いけど」 「・・・着ぐるみを着てたのに、よくそこまでわかりますね?」 「・・・固地を散々見ているからな。そういうのに敏感なんじゃないか?他支部にも、その手の人間は居るみたいだし」 「・・・説得力が違いますね」 「なぁ、真面。固地の鼻を明かしてやろう。奴がいない間に。どうせ、休暇明けまでに俺達が結果を出せなければ、また奴の偉そうな嫌味が飛んでくるぞ?」 「・・・ムカつきますね。こうなったら、俺達の手でぎゃふんと言わせてやりましょう!」 「「フフッ」」 また、2人同時に笑い合う。真面も、浮草とこうして話すことは支部内でも殆ど無いため新鮮だった。それは、浮草も然り。 「(余り浮草先輩と話したことは無かったけど、俺とすごく気が合う先輩かもしれない。・・・こんな人が内通者なわけが無い。 それに、あの“変人”が言ってることが正しいなら、固地先輩は内通者が誰なのかがわかってる筈だ。もし、浮草先輩が内通者ならあの固地先輩が苦戦する筈が無い! 殻衣ちゃん達にだってそう!同じ支部員の好き勝手をあの人が見逃す筈が・・・っておい!何で俺、人として嫌いな固地先輩をさも信じてるような考えを・・・!? 確かに仕事面だけは認めてるけど・・・これも仕事だけど・・・・・・いかんいかん!こんなんだから、何時まで経っても固地先輩のドヤ顔が収まらないんだ!! 浮草先輩の言う通り、固地先輩の鼻を明かすためには仕事面で結果を出さないと!!これ以上、あの人の憎ったらしい顔を見るのは勘弁だ!!)」 真面が抱く矛盾。それは、無意識の内に彼の思考に顔を見せる。 「さて、世間話もこれまでにして!今日は、俺の捜査方法を伝授してやろう。固地のせいで、風紀委員会では事務仕事ばかりやっていたからな。良い機会だ」 「浮草先輩の捜査方法・・・!!ど、どんな方法なんですか!?」 真面の期待が溢れた視線が浮草に向けられる。普段の活動でも浮草は単独で巡回等を行っていたので、真面は浮草の捜査方法は今まで知る由も無かったのである。 「学園都市には、治安維持の目的で多くの監視カメラや警備ロボットの巡回が存在していることは知ってるな?」 「は、はい!」 「だが、どんな監視網にも必ず穴というのは存在する。これを見てみろ」 「こ、これは・・・!?」 浮草がナップサックから取り出したのは、第7学区の地図に色んな色のマーカーでラインが引かれていた。 「この地図は監視カメラが無い、もしくは時間帯によって警備員や警備ロボットが巡回していないコースを色分けしてある。 今まで『ブラックウィザード』は、俺達風紀委員の捜査の網を悉く掻い潜っている。つまり、俺達の手が届かない方法を使っていると見て間違い無い」 「・・・・・・」 「1人で外回りするようになってから、この捜査方法を使い出したんだ。俺も、この手のことを調べて身を隠しているスキルアウトを現に捕まえたこともあるしな。 『ブラックウィザード』がこの経路を利用していると決まったわけじゃ無いが、この辺りを調査するのも1つの足掛かりになるかもしれないぜ?」 「・・・・・・」 浮草の指摘は、有用性のあるモノであった。確かに、『ブラックウィザード』が秘密裏に動いているとして、この経路を使用している可能性は否定できない。 この経路付近を調査すれば、何かしらの手掛かりが見付かるかもしれない。 「どう思う、真面?俺も、偶にはリーダーらしいことをするだろ?さすがの固地も、今までその手の捜査はしてこなかったようだし。 まぁ、あれだけの仕事量をこなしていればこんなことに気付く筈が・・・」 「・・・・・・」 「うん?どうした、真面?」 浮草は、さっきから反応を示さない部下の様子を訝しむ。その部下は、直後に己のナップサックを漁り出し、浮草にあるモノを見せた。 それは・・・地図。複数の色分けがなされている地図。これが意味するものは・・・ 「ま、まさか・・・!!」 「・・・固地先輩がボコボコにされた日の前日に、『今度からは、監視カメラの無い道及び警備ロボットが巡回しない道も洗い出すぞ』という指示があって・・・それで・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 バツが悪いとはこのことか。互いに無言になった後に、そそくさと地図に沿った捜査に移る2人。2人共に、嫌いな固地の鼻を明かすにはまだまだ実力不足のようであった。 「一色君!!何で一々女性の方にばっかり視線が泳ぐの!?しかも、さっきは2人組の女性に用も無いのに声を掛けるだなんて!!捜査中だよ!?」 「あ、あれは映倫中の後輩が居たから声を掛けただけだよ!!葉原ちゃんって、そんな怒りっぽいキャラだっけ?あ~、でもそんな葉原ちゃんもグッド!!」 「ふざけないの!!鏡星先輩もすれ違う男性を一々イケメン・フツメン・ブサメン・逝けメンに分けなくてもいいんですよ!?というか、しないで下さい!!」 「だって!!さっき見た坊主頭の顔って、ブサメンの中でも特に酷いブサメンだったんだから!!」 「他の人にもやっていたでしょ!?」 「全く。葉原に指摘されるとは鏡星らしいな。まぁ、エリートである私には指摘される隙も無い・・・」 「斑先輩!!界刺先輩を風紀委員に刃向かう犯罪者に仕立て上げるなんて、言語道断ですよ!!」 「き、聞いてたのか!?何という地獄耳・・・!!」 「あぁ!!もう!!普段は後方支援で支部に居るから詳しくはわからなかったけど、現場だとこんなにも酷い問題児集団だったなんて・・・!!」 「「「(毒舌っぷりがすごいな・・・)」」」 先程からカミナリを落としっぱなしの葉原に、一色・鏡星・斑が青ざめる。 葉原のカミナリは支部で加賀美がふざけた時に見るくらいだったが、ここに来て連発しまくっている。それだけ、問題児集団の言動が酷いとも言えるのだが。 「お、おい!神谷と姫空にも何か言うことは無いのか!?」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「あの2人は、さっきからずっと黙ったままですから。何を考えているのかを自分から明かさない人間とはコミュニケーションは取れません」 「な、何気に一番酷いことを言ってるな・・・」 止まることを知らない葉原の駄目出しに、斑は冷や汗をかく。確かに神谷と姫空は普段から口数が少ないので、何を考えているのかがイマイチ読み取れない節があった。 「(・・・『黒い着衣品』。さっきの坊主頭の男と一色君の後輩らしい女の子も身に着けていたわね。・・・こういう時も油断しちゃいけない。 下手をしたら、何処かで『ブラックウィザード』の構成員と遭遇しているかもしれない。 今の私が心掛けるべきは、調査に気付かれないように極自然に目線を動かすこと。体も同じように。これは、尾行の応用。私が固地先輩達から学んだこと。 気を抜くな、私!頑張れ、焔火緋花!!もう、誰かに怒られるのはこりごりよ!!)」 「(・・・でも、それだけじゃあ何の証拠にもならない。他にも『黒い着衣品』を身に着けている人は他に幾らでもいたし・・・。 もぅ!!事情を知らないとは言え、接触した時に丞介があの女の子の手首のサポーターを調べていれば!! 女性の手に臆せず触るくらいなら、着衣品についてもアクションを取って欲しかったわ!!)」 一方、焔火と加賀美はすれ違う人間が身に着けている着衣を注意深く観察していた。正確には『黒い着衣品』を。 『ブラックウィザード』の構成員は、すべからく『眼球印の黒い着衣品』を身に着けているという界刺の情報を頼りに2人は目を忙しなく、しかし自然に動かしていた。 ちなみに、この情報は現在の所界刺の部屋に居た者以外には3人を除いて知らされていない。 その3人とは、1人は警備員の橙山憐、1人は花盛支部の冠要、もう1人は・・・。これ等は、所謂内通者対策である。 「緋花ちゃん」 「うん?何、ゆかりっち?」 そんな折に、問題児集団に駄目出しを喰らわせていた葉原が焔火に話し掛けて来た。 「何だか、緋花ちゃんを見るって言うよりは一色君達を見てる感じだよ」 「え~。折角私もその気でいるんだから、ちゃんと見ててよ?」 「うん!だから、ここに来た」 「(うわ~。ゆかりって、私よりリーダーに向いてるかもって時々思っちゃうんだよなぁ。・・・自信が無くなるわ~)」 葉原の言葉を受けて焔火が後方を振り返ると、一色達が何となく疲れているような雰囲気を醸し出していた。 その光景を生み出した部下に、176支部リーダーである加賀美は羨望の眼差しを向ける。 「(あちゃ~。ゆかりっちを怒らせると、すっごくキツイんだよね・・・)」 「・・・緋花ちゃん?何か失礼なことを考えていない?」 「えっ!?そ、そんなわけ無いよ!?」 「・・・ふ~ん」 「そ、そんなことより!!ちょっと、そこの路地から続いている道に入りたいんですけど・・・いいですか、リーダー?」 「ん?どうしたの、緋花?何かあるの?」 「実は・・・数日前に178支部の真面達と夜遅くまで居残って作っていたヤツなんですけど・・・」 「これは・・・第7学区の地図だよね?」 「ええ。正確には、監視カメラの無い道や時間帯によって警備ロボットが巡回しない時間帯ごとに区切った道をマーカーで色分けした物です」 焔火は、加賀美と葉原に自分が手に持っている地図を説明する。 数日前に固地の指示の下、巡回任務が終わった直後に作成を命じられた。出向していた焔火は、真面や殻衣と共に夜遅くまで成瀬台に居残って色分けしていった。 (この日とその前日は、調子を崩していたこともあって浮草は休みを取っていた) 「きっと、真面達も今日はこれを使って捜査してそうな気がするんだよね。後で連絡を取ってみてもいいかも」 「そうだね。調査しているコースが被らないように、連絡を取った方がいいかも。緋花ちゃんも、少しは考えるようになったんだね~」 「ま、まぁね・・・///」 「でも、固地先輩の指示が無かったら思い付かなかったでしょ?」 「・・・はい。その通りです」 「調子に乗ったら駄目だよ~?」 「・・・了解です」 「(・・・私も、ゆかりや債鬼君に負けないように頑張らないと!!自分の欠点を克服しないと!!・・・でも、あの問題児集団・・・)」 葉原の毒舌に焔火があえなく撃沈し、加賀美は同じリーダーとして自分が抱える問題児集団との接し方に頭を悩ませる。 その後すぐに、176支部の面々は焔火がマーカーで区分けしたコースに沿って路地裏を歩いて行く。 人通りも無くひっそりとした路地裏には、所々に蜘蛛の巣が見受けられる。道路の舗装も比較的ボロボロで、砂利等が浮き彫りになっている そんな日も差さない薄暗い影に覆われた道を、風紀委員達は物怖じもせず歩いて行く。 「あっ!もしもし、真面。焔火だよ」 「焔火ちゃん?どうしたの?」 「えとね・・・単刀直入に聞くけど、あの地図に沿って巡回してる?」 「うん、してる。・・・もしかして焔火ちゃん達も!?」 「その通り。やっぱりそっちも同じことを考えていたか・・・」 「まぁ、あんだけ必死こいて作った物を活用しない手はないよ」 「同感」 携帯電話にて、焔火は真面とやり取りを重ねる。目下の話は、176支部と178支部の捜査コースが被らないようにすること。 「・・・てことは、もうすぐ焔火ちゃん達と鉢合わせするね」 「だよね。ふぅ、前もって連絡しといてよかった。出会い頭にバッタリ会ってお互いにビックリすることも、これで無くなったね」 「・・・178支部の人達がこの近くに居るんですね」 「みたいだね。・・・後方でのんびり歩いている稜達も、もっとシャキっとして!!他支部の人達にまで、だらしない姿を見せちゃ駄目だよ!?」 「・・・了解」 焔火と真面の会話で近くに178支部の真面・浮草が居ることを知った葉原と加賀美。 特に、リーダーである加賀美は他支部の人間にまで問題児集団の奇行を見せるつもりは無かった(手遅れ感がハンパ無くとも)。 その問題児集団の中で、神谷だけが加賀美の檄に応えた。後の4名は皆マイペースに歩を進めている。 「リーダー。ゆかりっち。タイミング的に、あそこの角を左に曲がったら真面達が向こうの方から顔を出すみたいな感じみたいですよ?」 「そうなの?それじゃあ、合流してみよっか!?」 「「はい!」」 真面との通話を終えた焔火の言葉に、加賀美は178支部との合流を提案する。合流した後に、路地裏における捜査コースの分担も決めたいとも考えていた。 「これで、真面君に連絡を取っていなかったらビックリしたかもね?」 「ゆかりっちの言う通りだと思うよ?やっぱり、出会い頭の遭遇ってビクっとしちゃうモンだよね」 「だよね~」 微笑ましい談笑を交わしながら、176支部の面々は178支部の面々と合流するために十字路を左に曲がる。 それとほぼ同じタイミングで、178支部の真面と浮草も反対方向から姿を現した。対面する176支部と178支部の面々。互いにその姿を確認した。 「・・・えっ・・・?」 だというのに、互いに声も交わさない。普通この手の出会いでは、遠くからでも大きな声でもって呼び掛けても不思議では無い。 「・・・へっ・・・?」 その原因は路地裏の一角、すなわち176支部の面々と178支部の面々との間―およそ中央地点―に居る“怪物”をその瞳に映したからだ。 漆黒のコートで身を包み、火の点いた煙草を口に咥えている背の高い男を見てしまったからだ。 「嘘っ・・・!!!」 それは、『シンボル』のリーダー界刺得世から忠告されていた超危険人物。 こと殺し合いにおいては、風紀委員達が勝つ確率は限り無く低いと界刺に言わしめた殺人鬼。 「・・・・・・」 “世界(ちから)に選ばれし強大なる存在者”・・・傭兵ウェイン・メディスンとの邂逅。今この瞬間から、日の差さぬ路地裏は風紀委員にとって命を賭した戦場へと移り変わる!! continue!!
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其れは、所謂〝猫〟という生き物だった。 真っ黒の綺麗な毛並み、ぴこぴこした耳、すらっとした手足。 端正が取れた顔付きで、恐らく猫の間では人気がある奴だろう……何となく、そう思えてしまった。 「……――貴方、一人ですの?」 問い掛ける少女は、ウェーブの掛かった流麗な銀髪と、紅い瞳が特徴的な……お嬢様のような雰囲気の少女だった。 アポロニア=ストレイン――其れが、少女の名だ。 猫と並ぶように、街の一角にあるベンチに腰を降ろすと、彼女は一つ溜息を吐く。 「……私も、そうですわ。」 「一人……なんですの。」 「貴方は――――寂しくありませんの?」 ただ戯れに、黒猫に質問を投げかけてゆく。 下らない、と知りながらも……何故だか空虚で、其れが不思議と心地良かったから、止める事は無かった。 ふと顔を上げる。街行く人の視線は、狂人を見るような――憎々しげな其れで。 少女は逃げるように、再び黒猫に視線を落とした。 「そう――貴方は、強いんですわね。平気そうな顔をしていますもの。」 「私は――――……。」 ふ、と。息を吸って。 「……寂しいですわ。とても寂しい。」 「だって――私は誰よりも強くて、誰よりも弱いんですもの。」 ……懺悔のように絞り出した言葉に、猫はただみゃあと鳴いて。 ゆるり、優雅な動きで――ベンチから降りる。 少女が見遣ると、其処には数匹の猫が、彼……或いは彼女を待つようにして座っていた。 「……ふふ。」 「私、どうかしてましたわ。――さ、行きましょう。」 小さく、微笑みを見せると……少女もまた、立ち上がり。 何をするでもなく――歩きだした。 其れは、とある夕暮れ時の一場面。
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「斑!!援護頼むぜ!!」 「わかっている!!」 施設内南東部で『ブラックウィザード』の構成員と戦闘しているのは、風紀委員176支部の面々である。戦闘開始から数十分は経っており、状況的には176支部が押している。 そんな中、残った機関銃や超能力で殲滅を図ろうとする敵に、“剣神”神谷稜は『閃光真剣』二刀流モードで迷い無く突っ込む。 「舐めやがって!!」 「ハチの巣になりやがれ!!」 176支部のエースの無謀さに腹を立てた構成員は、迷わず銃弾の嵐を叩き込む。しかし・・・ ブオッ!! 斑が神谷の背中と両脹脛に仕掛けた『空力使い』の噴射によって、突進スピードが上がる。以前加賀美に行った時とは違い、体に掛かる負担を考慮しての作戦である。 根本的に、神谷の方が加賀美より肉体的負荷に耐えられる体作りをしていることも、今作戦実行の是非を考慮する要素に入っていた。 「「なっ!?」」 「遅ぇー!!」 「ぐあっ!!」 「ぎゃあぁっ!!」 銃弾の軌道に入らず懐に潜り込まれた構成員の驚きの声を無視するかのように、双剣が振るわれる。 爆薬に反応しないように機関銃は切り裂かれ、続けざまに構成員を斬り捨てて行く神谷。機関銃の時とは違い、威力としては死なない程度の温度に保った斬撃である。 構成員達の護衛として少人数の“手駒達”も投入されているようで、その中の1人が砂鉄の剣をもって神谷の『閃光真剣』に抗おうと腕を振るう。 パッ!! 「!!?」 振るった砂鉄の剣が接触する瞬間、プラズマブレードが消失した。鍔迫り合いのようなかちあいを予想していた“手駒達”は虚を突かれる。 『閃光真剣』が消失した空間を斬り払うかのように砂鉄の剣が軌道を描いた・・・ ブン!!! 「ハアアアァァッッ!!!」 「ガッ!!!」 その瞬間、再び『閃光真剣』が形成される。砂鉄の剣の間合いを見切っている神谷は必殺の軌道に入ること無く体を動かし、逆にその勢いのままプラズマブレードを“手駒達”に振るう。 相手の武器(ナイフや鉄バットetc)をすり抜けるように攻撃を加える神谷の高等技術である。相手の攻撃を見切る+避けるor対処することができて初めて可能とするもので、 “手駒達”も『閃光真剣』の一撃をまともに喰らった後に小型アンテナを潰された。但し、短い棒(今は針)の先端(=『閃光真剣』の根元)から伸ばすようにプラズマを形成するので、 剣先―障害物―根元(=短い棒の先端)のように中途で障害物のようなモノが存在しているとそのモノを破壊しない限り完全な形成はできないという弱点もある。 「麗!!香染!!行くわよ!!」 「「了解!!」」 リーダーである加賀美の号令に、鏡星と姫空が応える。直後、『水使い』・『砂塵操作』・『光子照射』による遠距離攻撃が構成員達に向けられて放たれた。 ザアアアアァァァッッ!! ザザザザザッッッ!! ビュン!!ビュン!!ビュン!! 大量の水に押し流され、砂の行進に視覚を封じられ、レーザーで残る武器を全て焼き貫かれる。 自ら薬物を摂取している構成員達は、命の危機を薄めるくらいに気分が高揚しているが故に冷静な判断を行うことが少々以上に困難になっているというリスクを抱えている。 神谷と斑の作戦で行動が乱れたのもそれが一因である。離れている加賀美達の耳にも聞こえて来る敵の悲鳴によって、ようやくこの場での戦闘が終結したことを風紀委員は悟る。 「稜!!狐月!!戻って来て!!今後の行動指針を立てるから!!」 「「了解!!」」 加賀美の指示が神谷と斑に伝わり、彼等は素直にリーダーの指示に従う。施設内のあちこちで戦闘音が響く中、程無くして176支部の面々が集合する。 それを確認したリーダーは、後方支援を担当する仲間に通信を入れる。 「ゆかり!!緋花が債鬼君達と行動を共にするってホントなの!?さっきは戦闘中だったから、詳しいことが聞けなかったけど!」 は、はい!!固地先輩の持っていた解毒剤を緋花ちゃんに投与したことで、緋花ちゃんの戦線復帰が可能になりました!! 万全とまではいかないみたいですけど、固地先輩が責任をもって対処すると!!浮草先輩や椎倉先輩、橙山先生も許可しました!! 「債鬼君・・・!!」 加賀美は固地の決断に心が震える。あの薬の重要性は当の固地本人から聞かされている。それを焔火の戦線復帰に用いることを決断した彼の判断に、何とも言いようの無い思いが溢れて来る。 ここに居る面々は、焔火の確保を知らされた時点で気勢がグーンと上がっていた。先程の戦闘でも、そのプラス的影響が如実に現れていた。 「そりゃまぁ、焔火だってお姉さんが捕まっているんだから引けないでしょ!!女が一度本気で決めた覚悟は・・・舐めちゃ駄目よ」 「フン。鏡星に同意するのは些か不本意ではあるが、私としても焔火の心情は理解できる。固地先輩が付いているのなら心配は無いだろう」 鏡星と斑の声も何処か上擦っている。神谷と姫空は無言を貫くが、2人とて悪い気分では無いだろう。 「・・・わかった。ねぇ、ゆかり。閨秀先輩達の方はどうなってるの!?」 そ、それはまだ!!何分、破輩先輩の『疾風旋風』の影響を喰らった閨秀先輩達が墜ちたと思われる場所が、緋花ちゃんが監禁されていた場所に比較的近いんです!! 加賀美先輩達も轟音とかで気付いているとは思いますが、あの殺人鬼が緋花ちゃんを監禁していた建物を粉々に破壊したあの場所に近いんです。 椎倉先輩達の見立てだと、仮に『ブラックウィザード』の手が閨秀先輩達に及んでいないとしたら、殺人鬼が暴れ回ったことが大きく影響しているんじゃないかということです 「・・・あの轟音と崩落して行く様はぼんやりとだけど私達にも見えたよ。あそこに敵が居たら、きっと・・・・・・全滅しているモンね」 界刺の情報により、少なくとも彼等が離脱する直前までは朱花のような新“手駒達”はあの建物内には居なかったことが知らされている。 それ自体は喜ばしいものの、言い換えれば従来の“手駒達”は全滅―死亡―しているのだ。中には『ブラックウィザード』の手によって無理矢理“手駒達”化された者も居る筈だ。 それをわかっていた界刺は、それでも躊躇無く離脱した。自分があの場に居れば彼と同じ判断ができていたかどうか。・・・できなかった可能性もあった。 「(難しいよね。でも・・・私はそれをこなさないといけない。リーダーとして)」 彼の判断が正しいのか正しく無いのか、その是非を決めるつもりは毛頭無い。“そんなことより”、自分が彼と同じ立場になった時に後悔の無い決断を下せるかが重要である。 「そうなると、あの建物内に居た敵の戦力は全て殺人鬼によって潰されているのよね。・・・成程。だから、敵も慎重になってるのかも。周囲に罠が張られている可能性は0じゃ無いし」 はい。だからこそ、『治癒能力』を持つ勇路先輩が向かっています。159支部の人達も、勇路先輩の援護もかねて施設内東部にて旧型駆動鎧と交戦中です 「・・・私達も行った方がいい?」 いえ。距離的な問題もありますし、何より勇路先輩が先に辿り着くでしょう。先輩を信じましょう。閨秀先輩達を信じましょう。 加賀美先輩達は、本来の目的である『ブラックウィザード』の討伐任務及び新“手駒達”になっている人達の救助に当たって下さい 加賀美の加勢の申し出を葉原は断り、本来風紀委員会が果たさなければならない任務に従事するように仲間を促す。 現在、加賀美先輩達が居るのは施設南東部です。そこから南部、南西部へと捜査の範囲を広げて行って下さい。 固地先輩率いる178支部の人達は、北東部から北部、北西部へと捜査の範囲を広げる予定です 「南西部・・・・・・ということは、やっぱり『あそこ』に行かなきゃいけないかもしれないのね」 加賀美の瞳に映るのは、この戦場に居る者達がまずその目に映しているであろう異界・・・【閃苛絢爛の鏡界】。 15分程前から出現したあのドームの中で界刺と殺人鬼が戦闘を行っていることは、加賀美達にも理解できた。あの方向から幾度にも渡る轟音が響いていることも理解の一助になった。 ・・・はい。あの付近に新“手駒達”が囚われている部屋なり何なりがあった場合、界刺先輩達の戦闘に巻き込まれる可能性大です。 今の界刺先輩は・・・『本気』です。“邪魔”する者は誰であっても潰します。下手をすれば・・・殺します。おそらく、正当防衛という形で 「・・・うん」 そうで無くとも、今のあの人なら殺人鬼を利用して襲い掛かって来るかもしれない新“手駒達”を潰そうとしても不思議ではありません。崩落した建物内で非情な判断をしたように 「・・・・・・うん」 私達としては、新“手駒達”に重傷を負わせるわけにはいきません。百歩譲って勇路先輩の存在があるとしても、死亡という結果だけは何としても阻止しなければなりません。 その結果として、彼の矛先が新“手駒達”を救おうとする私達に向けられる可能性が極めて大です。少なくとも、私達は重傷を覚悟しなければなりません。 いえ・・・死を覚悟しなければなりません。あの殺人鬼も居るんですから。私個人としては・・・・・・いえ、何でもありません 「ゆかり・・・。私だって同じ気持ちだよ。あの人と戦いたくなんか無い。でも、それでも決断しないといけない時はあるんだと思う。 どんなに苦しくても。どんなに辛くても。私達にとっても、これは絶対に譲れない一線なんだよ。仕方無い・・・という言葉は言いたくないけど・・・仕方無い・・・のかな。 きっと、界刺さんもわかってる筈だと思う。その上で・・・あの人は“邪魔”をしようとする私達に牙を剥く。覚悟の上で。その時が来たら・・・私達も相応の覚悟が要るね」 ・・・・・・・・・はい 葉原の悲痛な声色に加賀美が顔を顰める。顰めながらもリーダーとしてフォローするが、界刺の心意を当の本人から聞かされている葉原にとっては余り意味が無い。 風紀委員の中で葉原だけが“英雄”の心意を知っている。“英雄”が背負わされるモノを教えられ、理解し、その結果として身勝手なのは風紀委員(じぶんたち)の方であると判断した。 “英雄”に色んなモノを背負わせながら、風紀委員(いっぱんじん)の都合で“英雄”を切り捨てる可能性を抱いている。自分達の都合を最優先にしようとしている。 それが風紀委員として譲れないことであったとして、では自分達は“英雄”のことを真剣に考えているのか?考え尽くしているのか?“英雄”に糾弾された葉原には答えられない。 今まで風紀委員達は界刺についてあれこれ文句を言って来た。端的に言えば『自分勝手だ』と。・・・何が自分勝手だ。自分勝手なのは風紀委員の方ではないか。 “英雄”に甘えているという事実に目を瞑り、この戦場においても『仕方無い』という理由で有耶無耶にするつもりなのか?・・・ふざけるな。そんな怒りの感情さえ芽生える。 “英雄”が自分勝手なら、風紀委員だって自分勝手だ。今の葉原はそう思う。他者のために“英雄(たしゃ)”を排除することは果たして許されることなのか。少女の中で堂々巡りが続く。 (界刺が破輩に伝えたようにお互い様的な部分は両者に存在するのだが、実質的に初めて界刺と対面したのが『マリンウォール』での遭遇だった葉原は、 伝聞でしか彼の評判の悪さを知らなかったこと(=実感が無い)、焔火の件で部外者である界刺に無理を言って頼ったこと等もあってその辺りの意識が酷く希薄であった。故の苦悩である) 彼女達が悩み苦しんでいるこの可能性は、九野が色々アドバイスをしてくれた日の午後に椎倉が気付いたものであった。 『皆に質問する。よく聞いてくれ』 椎倉が問い掛ける。もし、連れ去られた人達―奇襲を仕掛ける前に判明している行方不明者数が100人以上に上っている―が界刺と殺人鬼との戦闘に巻き込まれた場合どうするか。 これが、仮に表立った被害―今回の拉致活動―が出ていなかった場合、つまり与り知らぬ人間・・・従来の“手駒達”であれば非情な決断を下す選択肢もあっただろう。 どんな批判があろうとも、どんな異論があろうとも、『ブラックウィザード』を討伐するという最優先目標を妨げる可能性は排除しなければならない。 『椎倉』 『あぁ・・・わかっている。こっちとしても引くわけにはいかない』 だが、今回はその選択肢を選ぶわけにはいかない。風紀委員会としては、『ブラックウィザード』討伐を最優先にした上で、同時に拉致された人達を絶対に救助しなければならない。 すなわち最優先になり得る目的。最優先と最優先の両立が求められる事態。可能なら無傷での確保。無理でも軽症レベルに抑える。 間違っても重傷以降にはしない。風紀委員会として、黙って見ているだけなど認められるわけが無い。 しかし、それは2人の戦闘の“邪魔”をすることと同義である。厳命である『殺人鬼との自発的な戦闘行為禁止』を破棄するのと同義である。 たとえ界刺が拉致された人々を無遠慮に傷付けるような男では無いとしても、たとえ殺人鬼が仕事に関係の無い人間を殺さない主義であったとしても、物事に絶対は無い。 仮に、連れ去られた一般人が能力でもって反撃でもしようものならその時点でアウトだ。少なくとも、殺人鬼はその人間を殺すだろう。戦闘の余波で死ぬことも有り得る。 この可能性を論じていた会議の中、固地の問い掛けに椎倉は遂に決断を下す。『原則支部リーダーの許可が下りた場合に限って、殺人鬼との戦闘行為を認める』という決断を。 無論、殺人鬼の方から仕掛けて来た場合は別である。また、178支部と成瀬台支部はリーダーが後方支援に就く関係で、火急の時は前線で指揮を取る固地と寒村の判断に任せることとなった。 『となると、一番面倒なのが・・・』 『“3条件”を持つ界刺さん・・・ですね』 佐野や一厘他風紀委員達の頭を悩ます存在・・・それは“3条件”を持つ『シンボル』のリーダー界刺得世の存在である。 彼や彼等には幾つもの借りがある。助けて貰った。命を救ってくれた。彼等の働きが無ければ、こうして会議を開くこともできていない。 しかし、その彼が風紀委員達の命を脅かす強大な敵になる可能性が大なのだ。“3条件”を盾に、彼はゴリ押しをすることも可能である。 破輩が不動達から得た情報で、界刺が『幻惑』を用いながら姫空のようなレーザー系能力、しかも直線では無く屈折可能な光線を放つことができる可能性大なのを知った彼等は頭を抱えた。 暴力的な解決手法だが、実力で排除するという選択肢もあった。だが、その選択肢を切るカードが界刺の方にあるのだ。不条理にも程がある。 対策も無しに正面からぶつかれば、風紀委員会に所属する風紀委員は界刺得世1人に敗北する・・・というより殺される可能性が存在する。堪えた。想像以上に。 『かと言って、私達が事前に界刺さん対策をするということはそれこそ「シンボル」を敵に回すのと同じになりますよね?「太陽の園」での協力作業に影響必至ですよ?』 『・・・不動は「潰せ」と言っていたが、いざ戦闘になれば私達を攻撃することも厭わないだろうな。巻き込まれるのでは無い、私達が自発的に行動を起こすんだからな。 それと・・・そうなった場合、確実に1人私達を潰そうと行動を起こす水楯(おんな)が居るな。電話でも脅されたよ』 加賀美と破輩は、更なる危険性を脳裏に浮かべる。それは、『シンボル』全体が風紀委員会に牙を剥くことである。特に、水楯は容赦無く牙を剥くに違いない。 また、『シンボル』には形製という強力な読心系能力者が存在する。事前に界刺対策を施そうとする風紀委員会の行動を彼女に読まれたりでもしたらマズイ。 界刺のことである。その辺りまでの推察はしている筈だ。『太陽の園』での協力作業も控えている。命を救って貰った恩義もある。 何より、『シンボル』に所属するメンバー7人の内5人がレベル4の高位能力者である。彼等全員と敵対したくは無い。心情的にも物理的にも。 故に、界刺対策は行わなかった。行えなかったという表現が正しい。そもそも、彼の実力全てが判明しているわけでは無い。更に奥の手の1つ2つ隠し持っていても不思議では無い。 ましてや、相手は界刺だけでは無い。あの殺人鬼も居るのだ。当の界刺から風紀委員会全員がかりでも返り討ちを喰らうかもしれないと忠告され、実際に体感した殺し屋の実力。 それ自体が『本気』では無い可能性大なのだから堪らない。界刺共々ふざけるなである。そこに『シンボル』全体が加わった日には勘弁してくれ状態である。 『この言葉を俺が言うのは本来であれば好ましく無いが・・・・・・なるようにしかならん。その時々の最善を尽くせ。後は・・・時の運だ』 椎倉のこの言葉が、風紀委員会全体の苦悩振りを示している。最初は現場で対策を立てやすく、“3条件”の範囲外に『できる』警備員(駆動鎧)が当たるという方針は一応定めたが、 状況によっては風紀委員も事に当たらなければならない。『シンボル』そのものを敵に回す可能性も勘案しながら。 『太陽の園』での結果、『ブラックウィザード』の本拠地発見、焔火緋花の捕捉や新“手駒達”の存在、殺人鬼の相手をしてくれる等々、彼の働きは全て風紀委員会の利となっている。 だから苦しい。ある意味では新“手駒達”を救うために戦闘を行わなければならない苦汁の決断以上の苦しさを感じる。 客観的に見て、一連の事件で一番活躍しているのは『シンボル』、ひいては界刺である。自分達の決断は、彼に対する裏切りなのではないか?そんな負い目すら感じる。 否、裏切りなのだろう。あれだけ警告や譲歩をしてくれたのにも関わらず、自分達は彼を排除しようという思考を抱えている。 しかし、風紀委員としてここで引くわけにはいかない。いざという時は・・・界刺得世を敵に回す。文字通り命懸けで。そんな非情な想いを胸に、各風紀委員は戦場へ赴いていた。 「駆動鎧に包まれている警備員ならまだしも、私達は丸腰だしねぇ。銃器を相手取ってる身が言うことじゃ無いのはわかってるけどさ。 狐月以上の気流を操作できる破輩先輩の『疾風旋風』なら、強力な風で大気を掻き乱すことで界刺さんの光学攻撃を散乱させられるかもしれない。 もちろん、『光学装飾』で光線が制御されている以上明確な散乱は期待できないしそんなに都合良く運ぶとも思っていないけど、複雑な演算が必要になるのは間違い無いわけだから、 少なくとも弱体化や遅延は可能かもしれない。それでも・・・先輩が一瞬でも油断すれば光速の殺人光線が襲って来るんだよな。 油断・・・『幻惑』・・・界刺さんの専売特許だよね。・・・まさに命懸けだわ」 ・・・ですね。本当ならそんな場所に入らないで終わるのが一番なんですけど・・・覚悟だけはしておかなければなりませんからね 「香染の『光子照射』とは違って、頑強な障害物を盾にしようとしても屈折可能なレーザーを放たれればアウト。第一、そのレーザーの威力や射程も不明。 そもそも、界刺さんの『光学装飾』の全容がわからない。あそこに見える薄気味悪いドームの正体も光学系能力で発生させたこと以外はわからない。 きっと、あれが破輩先輩の言う『幻惑』なんだろうけど生理的に受け付けないよね。何、あの変な模様。気味が悪いったらないわ」 唯、こういう見立てもあります。拉致された人達が新“手駒達”として既に『ブラックウィザード』の戦力となっている以上、無理は犯さないんじゃないかという推測です 「・・・詳しく」 『ブラックウィザード』としては、私達風紀委員会に『シンボル』、そして殺人鬼の強襲を受けてまずは“逃走”に思考が集中する筈です。 この三者の攻勢はキツイ所じゃありません。態勢を立て直すためにも、そして生き残るためにも“逃走”を第一に考える筈です。具体的には逃走手段の確保やそれに応じた迎撃です 如何に『ブラックウィザード』と言えども、現在の状況では“逃走”を第一に行動している筈である。ここに踏み止まれるとはまさか思ってはいないだろう。 昔の篭城戦は現代では通用しない。アジトが割れた以上、速やかに“逃走”に打って出る筈だ。 私達風紀委員が東部方面から攻めている以上、逃走ルートとしては西部方面になります。警備員の駆動鎧部隊が回り込んでいるので、それも容易ではありません。 それを覆すためには、能力者の力が必要です。具体的には、強力な能力者・・・“手駒達”の力が 「確か、あの殺人鬼によって従来の“手駒達”は大幅に削られているのよね。さっきも潰されたし。ということは・・・」 はい。人質としても、今後の戦力としても新“手駒達”は『ブラックウィザード』の上層部と行動を共にする可能性が高い。上層部が潰れれば元も子も無いですからね。 ですが、それが私達にとっては界刺先輩と殺人鬼が戦闘している場所から新“手駒達”を遠ざけることに繋がります これは可能性が高い予測である。殺人鬼によって“手駒達”が少なくなっていると思われる以上、手に入ったばかりの新“手駒達”は連中も大事に扱うに違いない。 人質としても使える彼等彼女等は、上層部を守る堅牢な盾となる。本来であれば風紀委員会側としてはマズイ展開も、 界刺達の殺し合いに巻き込まれないという観点から見れば受け取り方が違って来る。態勢を立て直したとして、新“手駒達”が壊滅していれば向こうとしても本末転倒である。 新“手駒達”が人質となっている状況下で風紀委員会がここまで強硬に出張っている理由の1つが、この両者の殺し合いに新“手駒達”を巻き込ませないためである。 無論拉致された人々が新“手駒達”になる前に救出しなければならなかった時間的制約や、モタモタしていれば結局は殺人鬼と新“手駒達”が衝突するのが目に見えている現実、 今となっては現実に至らなかった可能性の1つだが、“手駒達”化の最中に殺人鬼の襲撃を受ける可能性もあった。 そもそも、今回の拉致は政治的目的でも身代金目的でも無い。“手駒達”という兵隊化が目的である。つまり、最初から交渉の余地等存在しないのだ。故の強行作戦である。 「私達が事前に想像していた動けない状態じゃ無い、電波操作で動ける状態だからこそ『ブラックウィザード』は逃走用として、そして後々のことを考えて重宝する筈・・・だね?」 はい。ですが、彼等の逃走ルートに界刺さんと殺人鬼の戦闘範囲が被さってくれば、少々の人数は切り捨てるでしょうけど。迎撃用として 「言い換えれば、『ブラックウィザード』の方から界刺さん達の戦闘に茶々を入れる可能性は低いのよね?」 だと予想されています。現状では両者が互角に戦闘を繰り広げていると思われる以上、もっと言えば両者が健在である以上、そこに貴重な戦力を差し向ける真似はしないでしょう。先の建物の件で、その傾向は益々強くなる筈です。向かわせるなら『六枚羽』が有力です。ですから、上層部の討伐と新“手駒達”の救助を優先して下さいってことなんです 上層部の討伐と新“手駒達”の救助は繋がっている可能性が高い。だから、彼等の居場所を早急に捕捉する必要がある。 そのためにも176支部は南から、178支部は北から捜査の範囲を広げるべきだ。葉原―椎倉や橙山―はそう言っているのだ。 「・・・わかった。それじゃあ、私達はこのまま南側から捜査して行くね。何か状況が変わったら、すぐに連絡を頂戴!私達の方も、何かわかったらすぐに連絡するから!」 了解です。それと・・・ 「ん?」 連絡の連携を確認した後に、葉原は通信を加賀美だけに絞り小声で『忠告』する。“英雄”の心意を知っている唯一の風紀委員として、彼の心を少しでも代弁できる者として。 彼を裏切った償いになるなんて思っていない。だから、これは別の裏切り。そもそも裏切っているのだ。風紀委員を自分は。何を今更躊躇する必要がある。 いざという時は覚悟して下さい。“閃光の英雄”は・・・『本気』で怒っていますよ。怒り狂っていますよ。皆の想いを押し付けられているのに、皆から切り捨てられるんですから。 ホント・・・ふざけるなですよね。もしかしたら、緋花ちゃんも同じような目に遭うんですかね?全く・・・ 「ゆかり・・・?」 “英雄”の心意を碌に理解していない、平和ボケしている風紀委員(あなたたち)には理解できないかもしれませんが 「ッッッ!!!」 『・・・知れていますか?本当に?僕が無口で無表情という性格を、リーダーは自分が他人の気持ちを量れない言い訳にしていませんか?』 何故だ?何故そんな言葉を吐くのだ?何故葉原ゆかりがそんな言葉を吐くのだ?まるで、あの病室で網枷双真―裏切り者―が自分に言い放った言葉と同じではないか。 「ゆかり・・・あなた、界刺さんから何か聞いているの?」 直感的。加賀美は葉原の言葉と声色から、彼女が界刺の心意を知っていることを悟る。自分と同じように界刺を頼っていることは知っている。 その折に彼から何か重要なことを聞いたのではないか。そう考えた加賀美に、『風紀委員(あなたち)』という言葉の中に実は自身も含めている葉原は・・・ 今更言った所でどうしようもありません。加賀美先輩の言う通り、界刺先輩も『わかっているでしょう』。私達の・・・新たな戦渦を呼び起こしてしまう無知で愚かな押し付けを。 望まなくてもそうなってしまう。あの人は・・・“英雄”は平和を享受することができない。否応無しに戦渦へ巻き込まれる。彼は『覚悟しています』。私も『知りました』。 だから覚悟して下さい。『戦う時』にしか必要とされない“戦鬼”を、『仕方無い』と言いながら『押し付けた』側の私達の都合で敵に回すことがどれ程の裏切りなのかを。では 回答を拒否する。その拒否の中に“英雄”の心意を混ぜながら、裏切り者は通信を切る。 「・・・・・・」 数秒間、加賀美は放心状態となった。彼女の言葉の意味を、そこに込められていた怒りを感じ取ったが故に。 これが“英雄(ヒーロー)”の業。これが“一般人”の業。幾星霜繰り返して来た歴史の一端。それは、今も尚続いている。 「(『戦う時』・・・か。“戦鬼”・・・か。・・・確かにゆかりの言う通りね。無知で愚か・・・か。まだまだあの人を理解できてないわねぇ、私。やっぱ、双真の言葉は当たってるわね。 しかも、いざって時は私達の都合であの人を敵に回すんだよな。普通の裏切りじゃ無い、盛大な裏切りよね。・・・・・・・・・苦しい・・・な)」 色々助けて貰った。風紀委員として、そして個人的にも。そんな彼を『仕方無い』という理由で敵に回す。 譲れない一線であることが事態を複雑にしている。椎倉の提起から、自分とてずっと悩んでいた。戦いたく無い。今もそう思っている。でも・・・譲れない。 「(・・・・・・・・・殺されても文句言えないかも)」 種類の違う、しかし譲れない一線同士がぶつかればどちらかor両方が妥協しない限り和解など生じない。両方をありのまま尊重することなど有り得ない。 『わかっている』者同士の戦闘。否、殺し合い。加賀美は思う。もし殺されたとしても、文句を言える筋合いは無いのではないか・・・と。 「(相応の覚悟じゃ足りない!絶対の覚悟が要る!!『殺されても揺らがない覚悟』が!!!リーダーである私に!!!)」 不測の事態は有り得る。自分や仲間が死ぬことも有り得る。そんな現実に直面した場合でも、決して揺らがない覚悟がリーダー足る自分には求められている。 「(ごめんなさい、界刺さん。今から謝っておきます。許してくれるとは思っていません。『許して』と言うつもりもありません。唯謝るだけです。本当に・・・ごめんなさい。 私は・・・176支部リーダー加賀美雅は進みます。たとえ、あなたを敵に回すことになっても。たとえ、あなたを裏切ることになっても私はあなたとの約束を守り抜いてみせます)」 『本物』の風紀委員になると誓った。最後までやり抜くことを誓った。それ等誓いを揺らがせるわけにはいかない。 ここが分岐点。そして、176支部リーダーは迷わず進む。それを、“英雄”も望んでいるだろうから。 「・・・加賀美先輩?さっきから何ボーっとしてるんですか?」 「うん?あぁ、ごめんごめん。ちょっと、気合いを入れ直してた所。緋花を救助できたことで気が緩んでたかもだし」 「・・・・・・注意された?」 「・・・バレた?」 「「「「ハァ・・・」」」」 鏡星と姫空の質問に、加賀美は誤魔化しの返答を行う。部下に余計な心配を掛けたくは無い。これくらいのことを背負えずして、何がリーダーか。 特に、これからは事態が様々に動くであろう。取り残されるわけにはいかない。臨機応変に対処していかなければならない。 「み、皆!そういうわけだから、迅速且つ慎重に捜査を進めるよ!それと・・・もし界刺さんやあの殺人鬼と戦闘になった場合は覚悟を決めなさい!!絶対の覚悟をね!!」 「「「「了解!!!」」」」 リーダーの指示に部下は声を揃える。本番はまだ始まったばかりである。解決しなければならないことは山積みだ。 焦らず、それでいて速やかな行動が要求される。これから先の失敗は・・・命取りになる。 「そらひめ先輩・・・そらひめ先輩・・・!!」 抵部の悲痛な声が倉庫内に響き渡る。彼女の傍で横たわっているのは、殺人鬼の強襲によって重傷を負って気絶している閨秀。 彼女達は『皆無重量』の消滅後、破輩の生み出した暴風の影響をモロに受け施設内中央部付近まで吹き飛ばされた後に、ある倉庫の屋根に墜落したのだ。 『物体補強』で2人共に墜落のダメージを抑えることができたが、屋根との接触時の体勢が悪かったために耳へ装着していた通信機―視界外で『物体補強』が僅かに弱かった―が弾け跳んだ。 屋根を付き抜け倉庫内に墜ちた2人。抵部はすぐに対外傷キットによって閨秀の左肩の血止めに掛かる。だが・・・ 『傷が大き過ぎる・・・!!』 キットに付属しているジェル状の薬剤でも出血を抑え切ることができない。それ程の深手。『物体補強』による補強が無ければ左腕が軽く吹っ飛んでいたくらいの威力である。 このままでは出血死すら有り得る。そう考えた抵部は無我夢中で己が能力を行使する。 『「物体補強」で・・・ジェルを固定する!!』 自身、あるいは触れた物体の周囲を覆う空気を分子レベルで固定することで補強する『物体補強』を閨秀に掛ける。 本来であれば薬剤を塗っている左肩だけに必要な処置だが、彼女のレベルでは物体全体を覆う形となってしまう。 ともあれ、抵部は閨秀自身が所持しているキットも持ち出した上でジェルの補強を行ったことで、何とか閨秀の血止めを維持することに成功した。 『と、とりあえずかん先輩に助けを・・・』 ドドドドドドドドドドン!!! 『ひいっ!!?』 少し落ち着いた抵部が、着信音等でこちらの位置を捕捉される危険性から電源を切っていた携帯電話で支部リーダーである冠に連絡を取ろうとした直後に響くは、殺人鬼の凶行。 続けざまに鼓膜を叩くのは建築物の崩壊音。もう一度確認するが、抵部達が墜落したのは施設内中央部付近である。そこには焔火が監禁されていた建物があり、殺人鬼も居た。 危機感しか募らせない轟音が抵部の思考を硬直化させる。防衛本能が少女に警鐘を鳴らした結果・・・ 『ッッッ!!!』 抵部は自身に『物体補強』を掛けた。一度掛ければ耐久力上昇と引き換えに指さえ動かせなくなる状態になったのだ。 救援を呼ぶための行動を犠牲にする判断。しかし、生存する確率を上げるための判断。鳴り止まない轟音―殺人鬼の暴虐―が少女を更に追い詰める。能力の維持を強要する。 それは、殺人鬼が去った後も続いた。近くでは発生していない戦闘音も、遠くから聞こえて来るのである。 何より、絶大な信頼を寄せる“花盛の宙姫”が撃墜された事実が抵部を恐怖という奈落の底に突き落としていた。 「どうしよう・・・どうしよう・・・」 目・鼻・口は『物体補強』下でも動かせる抵部は、先が見えない現状に不安だけを募らせて行く。 自分が今行っているのはあくまで現状維持である。このまま何かが解決するわけでは無い。閨秀が負った傷が治るわけでも無い。すぐに治療をしなければならない。 そのためには、今からでも救援を呼ぶために自身に掛けている『物体補強』を解くべきである。 しかし、解いて救援を呼ぼうとしている最中に敵に攻撃されたら・・・『また』あの殺人鬼の強襲を受ければ・・・そんな思考ばかりが頭に思い浮かぶ。 恐怖心が判断を鈍化させる。今の抵部はまさにその状態だ。 「そらひめ先輩・・・起きて下さいよぉ・・・」 この状態に陥った者が取る行動の1つに、自身が『信を置く者』に頼るというモノがある。抵部にとっては、閨秀がその『信を置く者』に該当する。 風紀活動では一番コンビを組んでいる中である。互いの性格を知り尽くしていると言っても過言では無い。 しかし、現在その『信を置く者』は重傷を負った上に気を失っている。頼ることができないのだ。そんなことは抵部にもわかっている。 それでも彼女を頼る言葉が漏れるのは、それだけ抵部が追い詰められている証拠である。 ドーン!!! 「!!?」 恐怖に苛まれている少女を更なる窮地に陥らせる爆破音が木霊する。首の動かない抵部の視線の先で倉庫のシャッターが爆発した。 「あれか!?“花盛の宙姫”って野郎は!?」 「いや・・・倒れてる奴がそうだ。あの茶髪は・・・同じ支部の抵部って女だな」 殺人鬼の暴虐及び罠を恐れて及び腰になっていた『ブラックウィザード』の構成員と“手駒達”が、遂に抵部達を強襲したのだ。 「(『ブラックウィザード』・・・!!ま、まずい・・・!!)」 抵部は動転しそうになる意識を必死に抑える。ここで自分が立ち向かわなければ、慕う先輩の命さえ危うい。 しかし、今自分が閨秀から離れればまた出血が再開される。自分が取れる選択肢は限られている。 「やっぱ、あの殺人鬼に攻撃されたダメージがデケェようだな。一応“手駒達”を用意して来たんだが、必要無かったか。おい、どうするよ?」 「んなモン決まってるだろ?・・・悪いがお嬢ちゃん・・・死ね」 「!!!」 薬を服用して気分が高揚している構成員の1人が、ポケットから拳銃を取り出す。あの銃で自分達を殺すつもりだ。 そう判断した抵部は、自身に掛かっている『物体補強』を解除し閨秀に覆い被さる。そして・・・ ガン!!ガン!! 「グウッ!!」 再び『物体補強』で自身を包んだ直後に構成員が放った銃弾が飛来する。能力によって銃弾が抵部達の体を貫くことは無い。あの不動と仮屋の合体技を防いだ程である。 しかし、抵部は気付いていない。閨秀の背中に乗っていたあの時は、大衝撃波をまともには食らっていない。喰らったのは閨秀である。 幸いにも演算や態度を乱すことは無かったが、軽減されたダメージは閨秀の体を駆け巡っていた。そして今、銃弾を身に浴びた抵部の体は防ぎ切れない銃弾の威力に呻き声を挙げる。 「へぇ・・・。レベル2の念動力系にしてはやるじゃねーの。その様子だと、威力自体は完全に防げてねぇみたいだけどよ。オラッ!!」 「ッッ!!ッッッ!!!」 構成員達が放つ銃弾の連撃を背中に浴びる少女は、声にならない声を漏らしながら耐える。否、耐えることしかできない。だが・・・ 「グアッッ!!!」 最後の発砲が抵部の右脇腹を抉る。抉るとは言っても掠った以上のレベルでは無い。但し、抉ったということは『物体補強』が破られたことを意味している。 自分の視界から外れる部分は補強が弱くなってしまう弱点がここで出た。自身の脇腹から血が流れていることを認識した抵部は、『死の恐怖』を実感する。 「メンドイな。こうなったら、“手駒達”を使って手早く済ませようぜ」 「だな。あの女の能力は、演算処理が追い着かないレベルの攻撃だと空気の固定が弱まるみてぇだしな。 例えば・・・薬で強化された“手駒達”の高圧電流を浴びせ続けたら死ぬわな!!電流なら、空気を固めていても関係無ぇし!!」 「!!!」 『物体補強』の性質が割れている。網枷が『書庫』で抵部の能力を調査している以上、それは自明の道理である。 「(どどどどうしよう!!このままじゃ・・・わたし・・・わたし・・・!!!)」 近付く死神の鎌。聞こえる死神の足音。自分の能力では防ぎ切れない。頼れる者は居ない。援護も無い。絶体絶命。 「一撃で決めろよ、“手駒達”!!」 「・・・・・・(バリバリ)」 電気系“手駒達”が高圧電流を放つ準備をする。敵は待ってくれない。自分達を殺すために容赦無く死の刃を振り下ろそうとする。 「やれぇ!!!」 死の宣告。 「(ぐうぅっっ!!!)」 目を瞑る。訪れる現実を見たく無かった。慕う先輩が死ぬ様を。自分が死ぬ様を。『物体補強』で震えることもできない少女に非情で無慈悲な現実が・・・ 「サーヤアアアアアァァァッッッ!!!!!」 訪れなかった。 ドゴーン!!! 「キャッ!!?」 「うおっ!!?」 「うわっ!!?」 抵部と構成員が対峙していたその横っ面を盛大に破壊したのは、何時かのコンテナターミナルで少女が見た『合体技』。 倉庫外に“手駒達”が鎮座しているのを確認した男達が敵を吹き飛ばすために使用した大衝撃波が、ついでに倉庫の側面をも吹き飛ばしたのだ。 「チッ!新手か!?」 「“手駒達”!!早くその女達を殺せ!!」 新たな敵の出現に焦る構成員の命令が電気系“手駒達”に下る。直前の衝撃波で攻撃が中断した“手駒達”が発生させた高圧電流が、再び抵部達を襲おうとする。 ビュン!! 「・・・・・・(バタッ)」 「なっ!!?」 だがしかし、電撃が放たれる直前に電気系“手駒達”を操る小型アンテナを『物体転移』による空間移動攻撃で破壊したことで“手駒達”は気を失う。 「サニー!!」 「はい!!」 『物体転移』という空間移動系能力を持つ『シンボル』の一員春咲桜の合図を受けて、同じく一員である月ノ宮向日葵が周囲に渦巻かせている『砂鉄の渦潮』を構成員へ振り向ける。 「「ガアアッッ!!!」」 砂鉄の行軍をモロに受けた構成員は後方へ弾き飛ばされる。その隙に月ノ宮と春咲が抵部の下へ駆け付ける。 「サーヤ!!大丈夫!!?」 「サニー・・・!!どうしてここに・・・?」 突然に次ぐ突然の事態に思考が追い着いていない抵部。一方、ライバルと認定した相手に『心配したから』とは言えない月ノ宮は回答に数瞬迷い・・・ 「あ、あなたは私のライバルなんですからね!!こんな所で死なれたら受けて立った私が馬鹿みたいじゃないですか!!そ、そんなこともわからないなんて、これだからサーヤは・・・」 「ムキー!!何かよくわかんないけど、またわたしを馬鹿にしたなー!!馬鹿なサニーの癖に!!」 「馬鹿なのはあなたの方でしょー!!」 「サニーの方に決まってるでしょー!!」 ツンデレ的言い訳をしてしまったことで、『どちらが馬鹿なのか』議論に発展してしまう。そんな2人の様子を呆れて見ている春咲がたまらず注意する。 「サニー!サーヤ!ここは戦場よ!?遊びじゃ無いんだよ!?わかってる!?」 「「ご、ごめんなさい」」 とは言っても、抵部は閨秀への『物体補強』を継続しているし、月ノ宮は不動達の一撃に巻き込まれなかった“手駒達”を操る電波を撹乱中である。 他に居るらしき電気系“手駒達”の妨害で完全な撹乱はできていないものの、“手駒達”の攻勢が止まっているのは月ノ宮の働きが大きい。 「不動さんと仮屋さんは別方面の敵を駆逐しているわ!!気を抜かないで!!とりあえず、閨秀先輩を運びましょう。サーヤ。手伝って!サニーは『砂鉄の渦潮』で援護を!」 「わ、わかりましたー!」 「はい!」 春咲の的確な指示が抵部と月ノ宮へ飛ぶ。この辺はさすが年長者と言った所か。不動・仮屋・月ノ宮・春咲は、ここに来るまでの間『ブラックウィザード』の妨害に遭っており、 それ等を打破して来た結果抵部達をすんでの所で救助することができた。紙一重の結果だが、戦場とはそういうものである。 「な、舐めやがって・・・」 「殺す・・・!!」 「たかが女3人・・・ぶっ殺す!!」 「「「!!!」」」 『砂鉄の渦潮』で吹き飛ばされた構成員達が体勢を立て直す。後方にも行動可能な“手駒達”が控えている。 「“手駒達”!!あの砂鉄の動きを止めろ!!」 「ッッ!!!」 生き残っている電気系“手駒達”が、月ノ宮が操る『砂鉄の渦潮』を妨害するために磁力を飛ばす。同じ電気系能力者の綱引き。 軍配は磁力操作を得意とする月ノ宮に上がるが、それでも影響全てをねじ伏せることができない。『渦潮』の動きが緩慢になる。 「(まずい!!私の『物体転移』は止まらないと行使できないし、サーヤの『物体補強』も自分自身に掛ける場合は動きが止まっちゃう!!)」 閨秀を運んでいる春咲の背中を嫌な汗が流れる。現状の『物体転移』は春咲自身が停止しなければ行使できず、また抵部が自身へ『物体補強』を掛けると動けなくなってしまう。 敵側としては格好の標的となる。月ノ宮も電気系“手駒達”の妨害で万全とはいかない。 「よしっ!いくそ、テメェ等!!」 「「「おうっ!!」」」 構成員と“手駒達”が銃や能力を従えて突撃して来る。人数では春咲達が不利。 月ノ宮が近くにある鉄製品に磁力を飛ばして銃弾の防御を、春咲が移動を止めて迎撃のための『物体転移』を発動しようとした・・・その瞬間!! 「さあ!!マッスル・オン・ザ・ステージの開幕だ!!皆、思う存分楽しんで逝ってくれ!!!」 「「「「「!!!??」」」」」 ボロボロの赤褌一丁姿の美青年・・・成瀬台支部員勇路映護が今にも崩れそうな屋根に空いた穴―抵部と閨秀が墜落した時にできた―から降臨した。 「「「キャアアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!!」」」 無論、降臨した時に発生した空気抵抗という名の不可抗力で褌が捲れ、彼の輝かしき漢(おとこ)の証が露になる。 勇路の声がした方向へ視線を泳がせた抵部・月ノ宮・春咲は、バッチリその証を目撃した。それ故の悲鳴である。月ノ宮に至っては2度目の目撃である。 重徳事変の折に、苧環が月ノ宮と共に界刺達と同行する決断を取り下げた最大の理由・・・『教育上の問題』がまた現出した。苧環の懸念は見事当たっていたというわけだ。 「あ、あいつは・・・『成瀬台の裸王』!!」 「何ィ!?事あるごとに最終的に全裸になるって言う、あの『学園都市一全裸の似合う男』か!?」 「『裸で出歩いても許してしまいそうな肉体美』とも言われてるらしいぜ!!『書庫』にそう書かれていたんだってよ!!」 「な、何でそんなことまで『書庫』に記録されてるのよ・・・?」 構成員達の驚き様に、春咲がゲンナリとした声色でツッコミを入れる。一体全体『書庫』への登録基準はどうなっているのだ? 「大丈夫かい、君達!?」 「大丈夫じゃないですよー!!!」 「やはりそうか。抵部ちゃん。怪我は・・・その右脇腹だね?それ以外は?」 「そんなことより、せいしんてきダメージの方がデカイですー!!」 「そうですよ!!何であなたの・・・あなたのアソコを2度も見ないといけないんですか!!?」 「月ノ宮ちゃん。何故怒ってるんだい?というか、君達が何故ここ・・・」 他方、抵部と月ノ宮は受けた精神的ショックから抗議の意思を勇路へ示すが、肝心の勇路は彼女達の抗議をイマイチ理解していない。そんなことよりも・・・ 「・・・これは酷いね。すぐにでも治療を始めないと」 閨秀の容態を見て、早急な治療―『治癒能力』の行使―を行わなければならないと判断した勇路は即座に決断する。“邪魔”になる者の排除を。 「そのためにも・・・さっさと逝って貰わなければならないようだ」 「「「ビクッ!!!」」」 勇路の言葉に含まれた敵意を、彼の体から湧き上がる闘志に構成員達が寒気を覚える。 「抵部ちゃん」 「な、何ですかー!?」 「来るのが遅くなってゴメンね。色んな妨害に遭って、ここに来るのが遅れてしまったんだ。『シンボル』の人達にまたまた感謝だね」 「えっ?・・・あっ」 勇路の神妙な言葉を聞いた抵部は、勇路の格好―ボロボロの赤褌―と合わせて気付く。彼が、ここに来るまでに『ブラックウィザード』の攻勢を幾度も掻い潜って来たことを。 少女は知る由も無いが、これは159支部の援護もあっての“最高速度”である。 着衣は、受けた攻勢によって使い物にならなくなったので脱ぎ捨てている。常人なら怪我だらけな筈の身体も、『治癒能力』にて治癒しているだけなのだ。 それでも、『成瀬台の裸王』は毅然とした態度を崩さない。今自身に求められているのは、治癒の必要な『安静な場所』作りである。 「君達をマッスル・オン・ザ・ステージの終幕へいきなりご招待しよう!!」 「「「!!?」」」 それは、喩えるなら筋肉のワルツ。華麗に宙を舞い、優雅に足技を放っていく姿は、まるで肉のバレエダンサー。 それは、喩えるなら“柔”の極み。気品溢れるその一挙手一投足に誰もが魅了されて止まない筋の微笑。 「さぁ!!フィナーレへ逝きたまえ!!!」 その男―勇路映護―こそ、筋肉の女神に愛された漢。女神の愛撫を受けた人間に敵う者などこの世に存在しない・・・筈である。 continue!!
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オラシオン 攻SS(ACE) 命B 回2 MP180 神聖 片手 防↓ ショートソード→バルダーソード→ブレシッドソード→ペニテンス→オラシオン 濡れたように輝く神聖剣。この剣を持つ者は神々と交信できると言われる 命中B MP消費180 に変更。使いやすくなった (名無し) にぎるまでに戦略で愛用してたのだが、神聖片手剣では優秀な部類に入ったと思います。 アンビシオンだと威力不足であり、仕様変更後使ってみたが威力も命中も悪くはなかった。 鬼盾所持してたので闇武器カモ用にするにはいいでしょう。鬼セにとっては厄介すぎます。 レーヴァンテインが流行りのようですが、鬼盾所持してるならこちらをオススメしますよ、本当に。 (シン) ゲートキーパー、鬼盾持ちで使用しました。その前後にデュランダルとレーヴァンテインを 使用していたのでそれらとの比較です。威力、命中ともにオラシオン=デュランダル>レーヴァンテイン という印象を持ちました。命中補正が悪くない職であればシンさんの言うように鬼盾+攻撃補正の高い職で 闇武器持ちを安定して2キルすることが望めます。デュランダル+鬼盾では、特徴が出ない、 四属性の一致ができない場合にはオラシオンを使うと良いかと思います。 (IPTY) 仕様変更前のレビュー 命中C MP消費200はちときつい 微妙な武器 これを使う香具師は”ブリュンヒルドほすぃ”と叫ぶであろう (名無し)
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SF研読書会レジュメ 「とある飛空士への追憶」 担当:刺身 1.作者 犬村小六 1971年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。ゲームクリエーターとして『幻想水滸伝III』『THE EYE OF JUDGMENT』『プリンセスメーカー5』などの制作に参加する。2004年にファミ通文庫でPS2用のゲーム『Remember11 -the age of infinity-』のノベライズ作品を刊行し作家デビュー、04年のうちにゲームノベライズ作品を数作発表するも、05年から06年までの間、作家としての作品の発表が無くなる。07年にガガガ文庫からオリジナル作品、『レヴィアタンの恋人』シリーズを刊行。08年に『とある飛空士への追憶』を発表。 2.当作品について 『このライトノベルがすごい! 2009』の作品総合ランキングでは10位を 得し、書泉ブックタワーのブック売り上げランキング(2007年10月15日 - 2008年10月12日)では1位を記録している。続刊の希望が多くの読者から上がったことから、この作品の世界を舞台にした新たな物語『とある飛空士への恋歌』(注1)が刊行された。またラジオドラマ化もされ、2009年5月7日からニッポン放送『宇宙GメンEX』内「アニコボ」で放送されている(平野綾による朗読) モチーフは『ローマの休日』と『天空の城ラピュタ』 注1 世界観(というか文明レベル等)は同じだがほぼ無関係。つか欠片も関係ないような・・・ 3.登場人物 狩乃 シャルル 主人公。超エース。ベスタドと呼ばれる差別人種。 ファナ・デル・モラル ヒロイン。容姿は「光芒五里に及ぶ」と評されるほどに美しい姫様。個人的にはエカチェリーナ2世を思い出した カルロ・レヴァーム 皇子らしいよ?⑨、すなわちバカ。素晴らしき馬鹿。馬に蹴られて死んじまえ もうやめて!艦隊のHPは0よ! 4.あらすじ バカ皇子のバカな行為で艦隊に大打撃を受けたレヴァーム皇国は失敗を秘匿しつつファナをカルロの元に届けるための極秘計画「海猫作戦」を立案する。その任務を任せられたシャルル。空を飛んでいるうちに閉じられていたファナの心も戻り、シャルルに惹かれてゆく。シャルルもまた、ファナを連れて逃げたいという思いに苛まれる。バカのせいで作戦ばれてたり、幾度の空戦を潜り抜けたどり着いた目的地で二人が選んだ選択とは? 5.個人的総評 ひさびさにフツーにイイハナシダナーという話を読んだというのも手伝って非常におもしろかった。正直ガガガからこんな話が出てくるとは思わなかった。シャルル→昔、姫に会ったときの記憶を糧に生きてきた⇔ファナ→このシャルルとの飛行のことを胸に生きていく、な対比がよかったかなーと。個人的にはシャルルとファナはあれ以後会っていない、と思っているのだが皆さんはどうだろうか?あとイラストの森沢晴行さんいい絵描くなーと。最後まで読んだ後に表紙を見て、表紙がラストシーンになってるのをみてちょっと感動した。 ホントどうでもいいことだけど世間知らずなファナ姫様はちゃんと怪我の手当に海水使っちゃダメだってわかってたんだね・・・海水使ってたら・・・ブルブル 名前 コメント
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登録日:2016/02/09 (火) 00 16 52 更新日:2023/10/25 Wed 14 37 07NEW! 所要時間:約 14 分で読めます ▽タグ一覧 FGO Fate GO NTR被害者 Prototype TYPE-MOON その愛が、憎しみに変わる前に ケーキ入刀 サーヴァント シグルドの嫁 テケテケ ニーベルングの指環 バカップル バーサーカー ランサー ヴァルキュリア ヴォルスンガ・サガ 北欧神話 好きだから殺す 幸運E 愛が重い 戦乙女 槍 槍使い 槍兵 死がふたりを分断つまで 水着鯖 百合 相手が悪かった 第四位 紫水晶 蒼銀のフラグメンツ 薬物中毒 贋作英霊 「優しいひと。優しいサーヴァント。そんなにも優しいと、私」 「困ります」 Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツに登場する槍兵のサーヴァント。 サーヴァント階位は第四位。 身長:172cm 体重:52kg 出典:北欧神話 地域:欧州 属性:中立・善 ◆ステータス 筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具 B+ A A C E A ◆スキル クラス別スキル 対魔力:B 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。 騎乗:A 天馬に騎乗した逸話から。 神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を自在に操れる。 逸話通りであればA+となるところ、ランサーとして召喚された事から低下している。 保有スキル 魔力放出(炎):B 炎に包まれた館の中で眠りについたという逸話がスキルとなったもの。 情念が深まるごとに炎は強くなり、魔力を元にして燃え盛る。 原初のルーン 北欧の大神の娘たる姉妹の一人であるランサーは、彼の大神が見出した原初のルーンを直伝されている。 これは第三の宝具とも言える強大なもので、最大稼動状態では現代のルーン魔術の数百万倍の破壊力となるとんでもない代物。 普段は父を裏切った自責の念から自ら封じているが、彼女がその自責の念を消し飛ばすほどに精神を崩壊させてしまったならばその限りではない。 もしそのような事態となれば、彼女は半神としての力を解放し、己の身を燃やし尽くすまで暴走を続けるだろう。 ただし、このスキルを使用する場合は広域破壊能力を持つ第二宝具『わたしだけの冥府への旅(ブリュンヒルデ・コメーディア)』の使用が制限される。 英雄の介添:C 英雄を勝利に導く性質がスキルとなったもの。 魔力を同調させ、対象が行うあらゆる成功判定にプラス補正を与える。 神性:E 神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。 本来ならばランサーは神霊に類する存在であるが、父である大神によって神性を剥奪されているため、そのランクは最低まで落ちている。 ◇概要 ナイジェル・セイワードのサーヴァント。 巨大な槍を携え、炎を操る鎧を纏った女性。 聖杯戦争においては全サーヴァントとの緒戦という口頭命令と、「最大の難敵と定めた相手の前でとある霊薬を飲み干せ」という令呪による強制命令を与えられている。 そしてセイバーとの初戦でその命令を実行し、姿を消す。 以下ネタバレ 「何て愛おしいのでしょう、英雄(あなた)たちは」 その真名は、戦乙女ワルキューレの長姉、ブリュンヒルデ。 『ヴォルスンガ・サガ』において大英雄シグルドの運命の相手であるシグルドリーヴァと同一視される戦乙女であり、 古エッダ『シグルドリーヴァの歌』『ブリュンヒルドの冥府への旅』でも同様にシグルドと恋に落ちるワルキューレとして語られている。 かつてはワルキューレとして勇士達の魂を尊き館へと導くシステムに近い存在であったが、 ある時、本来大神の祝福を受けて勝利する筈の人物を敗北させるという裏切りを犯してしまう。 それに対し、大神は彼女から神性を奪い取り、戒めのルーンによって眠りに落としたブリュンヒルデを永劫に消えぬ炎に包まれたヒンダルフィヨルの山頂にある炎の館へと幽閉した。 そして大神は預言を告げた。「いずれその館に、愛を告げて眠りを覚ます運命の勇士が現れる。そしてお前はその男と結ばれ、破滅の未来をもたらす」と。 そうして彼は現れた。 北欧最大の英雄、シグルド。竜の心臓を口にし、無敵の力と神々の智慧を手にした窮極のひと。 彼女は自身が破滅させるであろう英雄が現れる事が無いように願っていた。 彼は哀れな戦乙女を救えども、決して愛しはしないと誓っていた。 しかし、だがしかし。彼らは出会った瞬間に恋に落ちた。そしてその瞬間に、ワルキューレとしての機能は決定的に破壊され、ブリュンヒルデは人となった。 彼女は原初のルーンを始めとする全ての知識とわざを彼へと与えた結果、シグルドの力はブリュンヒルデを優に超え、共に破滅の未来を防ごうと心を砕いた。 そして、彼らは結ばれなかった。 山を下り、訪れたギューキ王の宮廷で、シグルドは王女グズルーンを彼に娶らせようとする王妃グリームヒルドによってブリュンヒルデの事を忘れてしまった。 そしてあろう事か、自分以外の男にブリュンヒルデを娶らせるための謀略に加担し、その男に彼女を与えたのである(*1)。 許せるはずもなかった。例えそれが預言された結末そのものであったとしても、許す事は出来なかった。 そうして彼の妻となった女の一族郎党を焼き尽くし、シグルドさえも殺し、ブリュンヒルデはその炎の中で自ら命を絶った。 「私が愛する男は、シグルドだけ。他にはいない」 「誰も、誰も、誰も、誰も、彼以外に私の体に触れて良い者はいない」 そして此度、サーヴァントとして現界したブリュンヒルデは、その愛を利用される事となる。 先述した霊薬の正体は、強制的に対象を愛させる「愛の霊薬」。つまりは惚れ薬である。 心理の支配者とも称され、感情を操作する霊薬の創造によって封印指定を執行される程の魔術師であるナイジェルの霊薬は、サーヴァントにすら影響を及ぼす。 そしてわざわざそんな霊薬を彼女に服用させたのは、その宝具の効果があまりにも特殊なものだったからである。 ◇宝具 『死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)』 ランク:B 種別:対人宝具 「好き」 「嫌い」 「好き」 「嫌い」 「好き」 「好き」 「好き」 「好き」 「好き」 運命の相手への深い愛憎の情を、生前に使用した魔銀の槍として形成させた宝具。 パッションリップもこの宝具を流用した同一の名前の宝具を振るう。 その効果は、「相手への愛が深まるほどに重く、大きく変化する」というもの。 名だたる英雄、戦士達に対して彼女は戦乙女として敬愛の念を抱いているため、これだけでもかなりの重量武器としては機能する。 しかし、彼女が深い愛情を注ぐ対象に対する一撃は、一線を画する。 手首を使った槍の回転だけでさえ、周囲の空間を切断する真空波を巻き起こし、繰り出されるその一撃は原子分解攻撃にも匹敵する。 更に愛が極まれば、その一撃は神霊すら殺し得るものになるという。 本来であれば、これ程の効果はシグルドへの特効を意味するものでしかない。 しかしナイジェルは強制的に愛を抱かせることで、最大の難敵への切り札としてこの宝具を機能させる事を目論んだのである。 が、ナイジェルには知り得ない誤算があった。 それはブリュンヒルデが召喚された理由、正しき英霊でもなく、反英霊でもない彼女がサーヴァントして選ばれた理由。 世界の破壊をもたらそうとする脅威、彼の『悪しき竜(ドラッヘン)』にも匹敵する程の存在、万象全てを生贄に捧げ、ただ一人の想い人の願いを遂げんとする『何もかもを喰らう恋心(ポトニア・テローン)』。 即ち、沙条愛歌に対する抑止力。それこそがブリュンヒルデが現世へと召喚された真の理由であった。 その結果、大神による因果干渉か、はたまた抑止力としての機構か、ブリュンヒルデは暴走を始めてしまう。 半神としての機能を限定解除し、原初のルーンを行使可能となったブリュンヒルデの力はおよそ万能に近く、 令呪の命令すら弾き、自身の霊核すら燃料としてセイバーを探し求めるが、その前に現れた愛歌の存在に正気を取り戻し、その槍を振り下ろす。 が、 「残念ね。軽すぎるみたい」 この槍は、愛する者を相手にした時、その威力を最大まで高める。 それは逆に言えば、愛なく、恋なく、賞賛なく、ただ敵意と憎悪と恐怖のみを抱く最大の敵に対しては何の力も発揮できない事を意味する。 ――身も蓋もない言い方になってしまうが、抑止力としては致命的な人選ミスだったのである。 そして愛歌は「重さすら感じない」と一撃を指一本で止めてみせ、ヒトに関わる全ての存在への特効とも言うべき恐るべき力によってブリュンヒルデは操られ、 全身全霊の誇りある一騎打ちによる決着を望むセイバーの元へ消耗した状態のまま向かわされ、その剣によって貫かれることとなった。 しかしその最期に、ブリュンヒルデは正気を取り戻し、大聖杯に潜むものの存在を告げ、世界を守る役目をセイバーへと託し、消滅していった。 「世界、を…」 終わらせないで。 どうか救ってください。 ―――儚くも気高い、誰より愛しき私の英雄よ――― 彼女の死によって、残るサーヴァントは三騎。そしてマスターは一人。 原典へと連なる極点の物語は、終わりの幕を上げる。 ◇Fate/Grand Order 「だめ...だめ...私に優しくしないで」 ランサーのサーヴァントとして登場。レアリティは☆5。 CVは能登麻美子さん。 FGOにおいては蒼銀の影響を引きずっているのか、はたまた抑止力として召喚されてないからなのか、カルデアに召喚されるブリュンヒルデは『シグルドを殺すモノ』として形作られてしまっており、 仮にシグルドと対面した場合、自動的にその槍を彼に向ける事になるという。 精神状態も(直接霊薬の影響を受けていないだけ蒼銀後半よりマシだが)かなり不安定で、優しくされるとシグルドと対象を混同し始め、最終的にその対象と近づく女を殺そうとする。きよひーもびっくりのヤンデレ具合である。というか狂化も精神汚染も持っていないのにコレなので下手したらあちらよりヤバい。 マスターに対してもそれは変わらず。 彼女にとって愛しいと思える人物=シグルドという風に認識されてしまうので、絆を深めれば深めるほど親愛の情とともに殺意も漲ってくるというかなり危険なサーヴァント。マスターのことをきちんとシグルドとは違う最も新しい英雄と理解していても、この衝動が消えることはないようだ。 またシグルドと源を同じくするジークフリートに対しては「すごく似てる」という事で最初から好意(さつい)を向けている。すまないさんの受難は留まることを知らない…勝手に黄金律も上げられたし 更にはエミヤに対してもシグルドを連想させているようで、 「エミヤ、なんて哀しい背中……あの哀しい背中を見るとまるであの人を思い出してしまいます」と不穏なセリフを呟く始末。相変わらずの女難の相っぷりである。 アルテラのキャラクエである「私の記憶」ではジークフリートとアルテラが同じ人物を妻に娶ったという話の、「妻に娶った」という部分を曲解してアルテラに襲いかかっている。 ちなみに『ヴォルスンガ・サガ』、古エッダの『グズルーンの唄』『シグルズの短い歌』等ではアッティラ王(アトリ王)の妹とされる。 ブリュンヒルデの幕間によれば、そもそもワルキューレはアルテラの本体とも言えるセファールの欠片から製造されたらしい。 それ故、ある意味では彼女たちワルキューレは確かにアルテラの妹と言える。 聖杯にかける願いは「シグルドとの再会」。 どちらの意図で再会を願っているのかは彼女しか知らない。 ◆性能 性能としてはランサーの中でも屈指のバランスタイプ。 通常攻撃はQuickの性能が良いため、NP効率がとても良い。 『魔力放出(炎)』(自身のバスターカードの性能&宝具威力をアップ(1ターン))、 『原初のルーン』(敵単体のクリティカル発生率ダウン(3ターン)&宝具威力ダウン(1ターン))、 『英雄の介添』(味方単体にスター集中状態を付与(3ターン)&HPを回復) とスキルがとても便利かつ高性能。 更に『英雄の介添』は幕間の物語Ⅱクリアでクリティカル威力アップ(3ターン)の追加、スター集中率の大幅アップ(LV10で無窮の武練LV1と同じ超高倍率)が成され、誰でもクリティカルアタッカーに仕立て上げる事が可能という無二の個性を獲得。 宝具 Buster属性で効果は【敵単体に超強力な[愛する者]特攻攻撃&味方全体のスター発生率アップ(3ターン)】。幕間の物語Ⅰのクリアで基本威力とスター発生率が強化される。 [愛する者]属性を持っているキャラが分かりづらいが、普通に宝具をぶっ放すだけでも充分に強力。 なお[愛する者]の判定基準に性別は関係ない模様。 セリフは上述の「好き」「嫌い」を連呼するもので、囁くような「好き」「嫌い」から徐々に艶のある「好き」の連呼の変化。能登女史の好演が光る。 そして2018年7月、モーション変更や新ボイス追加に伴い、新たな宝具ボイスも収録された。 「届け」 「届け」 「届け」 「私の───」 『死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)』! 「好き」「嫌い」とは違う、最初から余裕のない悲痛な叫びは必聴。 能登女史の演技も、最早怪演の域へと足を突っ込んでいる。 以上のことから、同じ☆5のスカサハ、ランサーアルトリア(白)と違ってアタッカーもサポーターも高い次元でこなせる事が最大の利点。 敢えて弱点を挙げるなら、その良すぎるバランスの良さからの器用貧乏さ。また防御面も回避・無敵・防御バフのいずれも持たずかなり脆い。 だが基本的に相性の悪い組み合わせがないので、主にBusterパーティに組み込んでやるといいだろう。 ◆劇中の活躍 メインシナリオでは(終局特異点での顔見せを除けば)第2部第2章でようやく初登場。 2016年2月の実装時には体験クエストが実装され、彼女の他に北欧の勇者ベオウルフ、ケルトの王フィン・マックールをお試しで使用できた。 (何故かベオウルフとフィンはどちらかしか使用できない仕様) ストーリーはロンドンに残る亡霊を退治するべく、 自分こそがマシュ・キリエライトであるという暗示を主人公にかけたブリュンヒルデがベオウルフとフィンにドン引かれながら暴れまわるというもの。 これによって一部ではブリュンヒルデを指して槍マシュと呼ぶプレイヤーもいるとか。 2016年4月に行われた期間限定イベント『ダ・ヴィンチと七人の贋作英霊』ではジャンヌ・オルタによって作られた贋作英霊の一人として登場。 クラスはバーサーカーに変化している。ある意味オリジナルより強くなってね? 実は単なる贋作英霊ではなく、ジャンヌ・オルタを語る上で欠かせない最重要キャラの一人でもある。 ジャンヌ・オルタは「一人くらい同性の部下がいてもいいか」という気楽な気持ちで作ったようなのだが、 彼女の奥底の「同性のフランクな友人が欲しい」という願いを聖杯の欠片が斜め上に解釈した結果、 「ジャンヌ・オルタをお姉様(シグルド)と慕うガチレズドM」として顕現してしまい、 終始ジャンヌ・オルタの下半身に纏わり付いたり、マッサージ(意味深)を迫ったり、蹴っ飛ばされたかと思いきやテケテケのように高速で這って戻ってくる、 終いには直火で炙られているのに愛を感じて悶えるなど、完全に妖怪かなんかと化していた。 だがオリジナル特有の愛する者絶対殺す状態にはならないなど精神面は変態な以外は安定しており、完全に嫁である。 そしてなんだかんだ言いながらも、ジャンヌ・オルタ自身も彼女には甘えていた節も見受けられた。 ブリュジャンキテル… 最後にはジャンヌ・オルタに「英霊として縛られずにもしもの生活を楽しめた」と感謝の言葉をジャンヌ・オルタに残し、 他の6体の贋作英霊の思いを代弁して彼女に礼を告げ、消滅していった。 しかし、彼女がジャンヌ・オルタに与えためっちゃ危ない「愛」は卑屈なだけだったジャンヌ・オルタを大きく変え、 ただの「ジャンヌ・ダルクの紛い物」ではない個を確立させる決定的な要因となったのである。 この贋作英霊としての記憶は本来のブリュンヒルデには無いとの事だが、 SSR2体を引き当てる強運と財力の持ち主ならば2人を同時運用してあげるのも乙なものかもしれない。 圧倒的な攻撃力を誇るジャンヌ・オルタとスター集中を他者に与えるブリュンヒルデとの相性も良好である。 贋作でありながらも、ある意味で本物以上の人気を誇る事や、本人のバーサーカークラスの適正も高いため、贋作ブリュンヒルデの限定配布枠などでのサーヴァント化を望む声も多い。 余談だが、後に出てきたジャンヌ・オルタの子供の姿にしてジャンヌ姉妹の三女(?)・ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ。 彼女の立ちポーズや攻撃モーションは、ブリュンヒルデに非常によく似ている。 また終局特異点ではオリジナルのブリュンヒルデとジャンヌ・オルタが揃って登場している。 今でも彼女の中でブリュンヒルデが大切な存在として強く心に残っている事の証明と言えるだろう。 『ネロ祭2017』では何故か主人公に再び暗示をかけ、他の英霊達が実力を競い合っている裏で彼をカルデアスの前に連れ出す。 新宿のアーチャーに入れ知恵された彼女は、数多の実力者が集うこの祭典の中から英霊を選び、原始のルーンで擬似的な転臨を行い最強の英霊を作り出そうとしていた。 無論、サーヴァントの身でそんな無茶を行えば、霊基は確実に崩壊してしまう。 企みに気付いたマシュ、レオニダスが引き連れたサーヴァント達の説得に一時は折れかけるも、既に想いが暴走していたブリュンヒルデは自らを止めることが出来ず戦闘に。 敗北後、自分を止めてくれたマスターに感謝を述べたところで、祭典の裏に繰り広げられた事件は解決をみることとなる。 そして、一人のアラフィフがお仕置きの如くバリツを食らわされたことは誰も知らない そして2018年7月、FGOメインクエスト第2部「Cosmos in the Lostbelt」第2章、「無間氷焔世紀ゲッテルデメルング/消えぬ炎の快男児」が配信。舞台が北欧(の異聞帯)ということもあり遂に本編への参戦を果たす。更には配信と同時に☆5セイバーとしてシグルドも念願の実装。恒常ではなく期間限定でな! シグルドは英霊となったことで無事記憶を取り戻しており、完全に愛を取り戻している。 その上、自分に殺意を向けてくるサーヴァントとしてのブリュンヒルデに対しても、それを愛の証明であるとし、全て受け止めるつもりでいる。 そんなシグルドのカッコよさにブリュンヒルデも我慢できなくなりそうだが、マスターの手前どうにかこうにか自制している様子。 しかし、仮に自制できなくなったとしても、シグルドの愛は最早一切揺らぐことはないだろう。 ストーリーではブリュンヒルデは汎人類史側として召喚される。 オフェリアとしてはシグルドの魔剣にかけさせることが忍びなく、スカサハ=スカディに至っては「愛する」という思考であったため、命は取られずガルフピッゲン山の炎の館への幽閉で済まされていた。 炎の館に主人公たちがやって来たことで幽閉を破り復活し、カルデアと行動を共にする。 この時点ではシグルドがいないためか常識人な振舞いが目立ち、集落の子どもたちには優しいお姉さんとして振舞っている。 口説いてくるナポレオンにはルーンで幻惑してやり過ごしたりするも、敬意をこめて「皇帝陛下」と呼ぶこともあった。 妹たちであるワルキューレ三姉妹と対峙し、姉としてその心理を見透かし、暴走するヒルド、スルーズを倒した。 そして決戦時。シグルドが炎を使った(生前のシグルドは禁じていた)ことから、シグルドがシグルドではないと看破。 シグルドの霊核を砕き、スルトを復活させてしまう。 その戦いで受けたダメージでブリュンヒルデの狂気も収まりを見せ、シグルドも正気に戻った結果、シグルドから堂々と惚気られ、嬉しいやら照れ臭いやらで顔を真っ赤にしている。 ちなみにヒンダルフィヨルで共に暮らしていた頃は常時こんな感じだった様子。 そしてシグルドと共にスルトを討ち果たし、次に会えた時は迷わず当方に槍を向け、愛を証明するがいい。当方はその上で生き延び、当方の愛を証明するというシグルドの宣誓に涙ぐみながら消滅していった。 その後もイベントや幕間にちょくちょく顔を出すが、シグルド本人が来たことでこれまでのアブナイ枠からBAR-カップル枠に華麗にジョブチェンジを果たしてしまった。 ちなみにシグルドのたまに発する寒すぎるボケには割としっかりツッコミを入れており、一方的についていくだけの伴侶ではない。 もちろん槍はデカくなるのでシグルドにはガシガシダメージが入るが、シグルド本人がガッツで耐久普通にしているので何の問題もなかった。 真面目なところではワルキューレもカルデアに来たため、長姉としての姿も見ることができる。 追記・修正はシグルドへの深い愛憎を抱きながらお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] コメント欄が長くなってきたのでリセットしました -- 名無しさん (2016-11-19 15 20 05) 本物の方のブリュンヒルデが、ぐだーずにオルタに向けるような愛情を向けるキャラだったら、きよひー・静謐ちゃん・頼光とセットで、四天王になってたかもしれん? -- 名無しさん (2016-11-19 15 22 53) 贋作のせいで変なレッテルを貼られて私は悲しい… -- 名無しさん (2016-11-19 18 23 09) 贋作以前にFGOの旦那コロコロ、蒼銀の虐殺焼き払いと元ネタの伝承や戯曲知っているほど、改悪が酷すぎるけどね。なんでサガではグンナルのその後があるのに狂った殺人鬼に仕立て上げ、直接旦那殺していないのに殺意向けるとか意味分からんキャラ付けしたし。 -- 名無しさん (2016-11-28 22 55 38) Bastarという第4の属性 -- 名無しさん (2016-12-29 21 14 59) シグルドとの生前の営みは良かったな。それはそれとしてタグのジャンヌオルタの嫁って……贋作英霊とはいえ面倒なキャラ付けをしよって -- 名無しさん (2017-01-29 16 42 34) そのうちシグルドやルキウスも実装されるだろうか。 -- 名無しさん (2017-04-21 19 45 15) シグルドはとっく作成済みだろう -- 名無しさん (2017-04-26 22 59 55) キャラも蒼銀で仕上がってるからな。しかし戦闘力がどう見てもシグルドの方が上だよなアレ……まるでブリュンヒルデが勝てる要素が見当たらない -- 名無しさん (2017-06-04 21 20 42) 贋作イベントについての記述、オリジナルを馬鹿にしすぎじゃない?一途さや甲斐甲斐しさが決してあり得ないとか、他も違和感しかない -- 名無しさん (2017-09-10 22 53 09) ↑本物よりもヤンデレ成分が低いからしょうがない。「相手を殺す」概念のない普通に恋する乙女状態だし。あとマテリアルによれば、やっぱり本物の方も贋作英霊の頃の記憶が断片的にあるようで、ジャンヌ・オルタを見てると不思議な違和感を感じるらしい… -- 名無しさん (2017-10-30 02 02 11) いや流石にいくらなんでも甲斐甲斐しさがありえないとかオリジナルより人間味があるは馬鹿にしてると思うけど -- 名無しさん (2018-04-17 10 23 18) 2018.7についにシグルド実装 第二部二章にも登場かー -- 名無しさん (2018-07-20 01 31 55) シグルドが来たらどうなることかと思っていたが、むしろシグルドの方が惚気てて笑う -- 名無しさん (2018-07-20 15 24 28) シグルドが予想外なまでに惚気てくるもんで逆にタジタジになってるブリュンヒルデは見てて微笑ましい -- 名無しさん (2018-07-23 20 14 05) 旦那の惚気であわわ顔ヒルデさんが新鮮すぎて微笑ましかった -- 名無しさん (2018-07-23 22 20 17) そもそも原典からしても「記憶ごと恋慕の感情全部忘却させられた」からの所業なだけで忘却前デッレデレじゃなかったっけw -- 名無しさん (2018-07-27 00 37 10) 破滅すると予言されてたが一目惚れってだけで予言を無視して嫁にしたからな -- 名無しさん (2018-07-27 01 26 46) 贋作の時の真面目語りに本来の素っぽい部分が見えていたが、やっとシナリオでまとも状態の出番あり。しかも愛しい人と一緒。良かったのう。 -- 名無しさん (2018-07-31 07 08 06) バカップル振りの加速度合いが近年凄まじい、極めつけは2020年水着イベント -- 名無しさん (2020-09-13 01 27 31) 5周年企画でもハネムーン行って、その続きと言わんばかりの2020水着イベントよ……宝具がもうね。 -- 名無しさん (2020-10-11 12 50 51) シグルドが来てくれたから精神的には安定してるはず。たぶん。 -- 名無しさん (2022-06-13 17 58 34) 名前 コメント